コスモス613号

コスモス613号（ロシア語: Космос 613）は、1973年 11月30日に旧ソビエト連邦によって打ち上げられた、ソユーズ宇宙船シリーズの無人試験機です。

打ち上げの背景と目的

このミッションの主目的は、ソユーズ宇宙船が軌道上で長期間にわたり運用、特に将来の宇宙ステーションにドッキングした状態で、その機能を維持できるかを検証することにありました。

1970年代、ソビエト連邦はサリュート宇宙ステーション計画を推進しており、宇宙ステーションへの人員輸送や物資補給にソユーズ宇宙船が不可欠な役割を担うことになっていました。

宇宙ステーションは長期間軌道上に滞在するため、それにドッキングする宇宙船も数ヶ月間にわたって接続されたままとなる可能性がありました。しかし、当時のソユーズ宇宙船は比較的短いミッション期間を想定して設計されており、長期にわたる軌道上滞在が機体のシステムや機器にどのような影響を与えるか、十分に把握されていませんでした。

このような背景から、ソユーズ宇宙船を実際に無人で軌道上に長期間放置し、その間の機体の状態、各システムの耐久性、そして最終的な地球への帰還能力を確認する「長期軌道上貯蔵試験」が計画されました。コスモス613号はこの重要な試験を担うために打ち上げられたのです。

ミッションの詳細

コスモス613号に使用された機体は、ソユーズ7K-T型と呼ばれるタイプでした。これは、サリュート宇宙ステーションへの輸送ミッションに使用されることを想定して開発されたソユーズの改良型です。

機体種類: ソユーズ7K-T
重量: 約6,800 kg
クルー: なし（無人機）
打ち上げ日: 1973年 11月30日
帰還日: 1974年1月29日

コスモス613号は、バイコヌール宇宙基地から打ち上げられた後、予定された軌道に投入されました。

この試験ミッション中、機体は宇宙ステーションとのドッキングは行いませんでしたが、あたかもドッキングしているかのように、長期にわたって軌道上での「保管」状態を維持しました。これは、電力システムの長期稼働、温度制御システムの維持、通信機器の定期的なチェック、姿勢制御系の機能保持など、宇宙船が活動していない待機状態でも内部システムが適切に機能し続けるかを検証するためでした。

特に、推進薬タンクの圧力維持、バッテリーや太陽電池パネルによる電力供給の安定性、宇宙放射線や微小隕石など過酷な宇宙環境下での機体構造や機器の劣化度合いなどが重点的に監視・評価されたと考えられます。

約2ヶ月間の軌道上滞在を経て、コスモス613号は1974年1月29日に地球へ無事帰還しました。この長期ミッションの成功により、ソユーズ宇宙船が設計寿命を超えて比較的長期間、軌道上で機能を維持できることが実証されました。

試験の成果と意義

コスモス613号による長期軌道上貯蔵試験の成功は、その後のソビエト/ロシアの有人宇宙活動において非常に大きな意義を持ちました。

この試験で得られたデータと技術は、ソユーズ宇宙船がサリュートやミールといった宇宙ステーションに数ヶ月間ドッキングしたまま運用されることを可能にしました。

宇宙ステーションへの継続的な人員交代や補給を支える上で、到着したソユーズが次のソユーズが来るまでの間、いわば「脱出艇」として、あるいは将来的な帰還手段として待機する必要がありました。コスモス613号による試験はその信頼性を担保するために不可欠なステップだったのです。

このミッションを通じて確立された長期貯蔵技術は、ソユーズ宇宙船の信頼性と運用柔軟性を飛躍的に向上させ、旧ソ連の長期宇宙滞在能力の発展に大きく貢献しました。

コスモス613号は、派手な宇宙飛行や歴史的なドッキングを行ったわけではありませんが、地道ながらも重要な技術実証を行い、後の宇宙ステーション時代の基盤を支えた目立たない功労者と言えるでしょう。

参考文献

Mir Hardware Heritage - NASA report (PDF format)
* Mir Hardware Heritage (wikisource)

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