コスモス656号

コスモス656

コスモス656（ロシア語: Космос 656）は、かつてソ連が運用していた「コスモス」衛星シリーズの一つとして実施された、無人の宇宙ミッションです。このミッションは、ソユーズ宇宙船の派生型である「ソユーズ7K-T」という特定のモデルの飛行性能を試験することを主な目的としていました。

ソユーズ7K-Tは、一般的なソユーズ宇宙船とは異なり、ソ連の秘密裏に進められていた軍事宇宙ステーション計画、「アルマース」プログラムのために特別に開発された機体です。アルマース宇宙ステーションへの人員や物資の輸送手段として構想されており、コスモス656による無人試験飛行は、この重要な役割を担う宇宙船が、実際の運用に耐えうる性能を持っているかを確認するための不可欠なステップでした。

無人試験飛行は、新しい宇宙船の設計や既存の設計に対する重要な変更が加えられた際に、そのシステムが意図した通りに機能するか、打ち上げから軌道投入、そしてその後の軌道上での運用に至る一連のプロセスが安全かつ正確に行えるかを検証するために実施されます。コスモス656は、ソユーズ7K-Tがアルマース計画という特定のミッション要求を満たすために施された改良点や、それに伴う変更点全体の信頼性を確かめるための試験台となったのです。

このミッションにおける宇宙船の諸元は以下の通りです。

宇宙船: ソユーズ7K-T
質量: 6,675kg

また、軌道上で達成された主要なパラメータは以下の通り記録されています。これらの数値は、宇宙船が地球の周りをどのように飛行していたかを示します。

近点高度 (Perigee): 195km（地球に最も近づく軌道上の点での高度）
遠点高度 (Apogee): 364km（地球から最も遠ざかる軌道上の点での高度）
軌道傾斜角 (Inclination): 51.6°（軌道面が地球の赤道面となす角度）
軌道周期 (Orbital Period): 90.0分（軌道を一周するのにかかる時間）

これらの軌道パラメータは、コスモス656ミッションにおいてソユーズ7K-Tが投入された特定の軌道特性を明確に示しており、将来的なアルマース宇宙ステーションへの往来を想定した軌道試験の一環であったと考えられます。

コスモス656のような無人試験飛行で得られたデータは、その後の有人宇宙飛行の成功に不可欠な知見を提供します。システムの挙動、軌道維持能力、さらには地上との通信に至るまで、様々な側面の検証が行われたことで、アルマース計画におけるソユーズ7K-T宇宙船の信頼性向上に貢献したと言えるでしょう。このミッションは、軍事目的を含むソ連の有人宇宙活動を支えるための、重要な技術開発プロセスの一環として位置づけられます。

もう一度検索