コスモス672号

コスモス672号

コスモス672号（ロシア語: Космос 672）は、1974年にソビエト連邦によって実施された無人宇宙飛行ミッションであり、ソユーズ宇宙船を用いた重要な技術検証の一環として位置づけられます。この飛行は、翌年に控えたアポロ・ソユーズテスト計画（ASTP）に向けた準備の中でも、特に宇宙船のシステム信頼性を確認するための2度目の無人試験飛行として行われました。

ミッションの背景と目的

アポロ・ソユーズテスト計画は、冷戦下の緊張緩和が進む中、アメリカとソビエト連邦という宇宙開発における二大強国が初めて軌道上で協力するという、歴史的な意義を持つ計画でした。この計画の成功には、両国の異なる設計思想を持つ宇宙船同士が安全かつ確実にドッキングできる技術の確立が不可欠であり、そのために開発されたのがAPAS-75（Androgynous Peripheral Attach System）と呼ばれるドッキングシステムです。APAS-75は、従来の片方がオス、もう片方がメスとなる方式とは異なり、どちら側からも相手とドッキング可能な、雌雄同体型のユニバーサルな設計が特徴でした。

コスモス672号ミッションの主要な目的は、この革新的なAPAS-75ドッキングシステムが宇宙空間という極限環境下で設計通りに機能するかを検証することでした。将来の国際宇宙ステーションなど、複数の宇宙機が連結する構想を見据えると、このような汎用性の高いドッキング技術の信頼性確認は非常に重要でした。

飛行の詳細

ミッションには、ソ連のソユーズ宇宙船の初期改良型であるソユーズ7K-OK型の無人機が使用されました。無人飛行が選択されたのは、新しいシステムの軌道上での挙動を厳密に、かつ乗員の安全を確保しながら確認するためと考えられます。宇宙船の質量は、約6,510キログラムから6,680キログラムの範囲でした。

コスモス672号は、1974年8月12日に打ち上げられました。軌道に投入された宇宙船は、予定されたミッション期間中、搭載されたAPAS-75システムの機能試験などを実施したと推測されます。APAS-75の展開機構や、将来のアポロ宇宙船とのドッキングに必要となるであろう各種センサーやアライメントシステムの作動状況などが確認されたと考えられます。具体的な試験内容は詳細には公開されていませんが、無人試験であることから、アポロ宇宙船との実際のドッキングではなく、システム単体の機能や信頼性を検証する段階であった可能性が高いです。

軌道上でのミッションを終えたコスモス672号は、打上げから約6日後の1974年8月18日に地球へ無事帰還しました。この帰還によって、軌道上での試験データを回収するとともに、宇宙船システムの耐久性や帰還プロセスの信頼性も確認されました。

意義

コスモス672号によるAPAS-75システムの無人軌道上試験は、アポロ・ソユーズテスト計画の本番成功に向けた重要な一歩となりました。この試験で得られた知見やデータは、システムに改良を加える上で役立てられ、翌年の有人ドッキングミッションへと繋がりました。APAS-75およびその改良型は、その後のミール宇宙ステーションにおけるスペースシャトルとのドッキング、そして現在の国際宇宙ステーション（ISS）における各モジュールの結合や宇宙機とのドッキングなど、宇宙における国際協力や大型構造物の構築において不可欠な技術として広く使用されることになります。

コスモス672号の飛行は、単なる技術試験というだけでなく、米ソ間の宇宙における対話と協調を促進するアポロ・ソユーズテスト計画全体の成功確率を高め、ひいてはデタントの進展にも貢献する象徴的な出来事の一つであったと言えるでしょう。

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