コミュニティ強化アプローチと家族トレーニング

コミュニティ強化アプローチと家族トレーニング（CRAFT）

コミュニティ強化アプローチと家族トレーニング（CRAFT）は、嗜癖行動、特に物質使用障害の治療に応用される行動療法の体系的なアプローチです。これは、元来アルコール使用障害のために開発され、35年以上にわたり様々な物質使用障害への有効性が示されている「コミュニティ強化アプローチ（CRA）」を基盤としています。

コミュニティ強化アプローチ (CRA) の起源

CRAは、1970年代にネイサン・アズリンらによって行動学習理論、特にオペラント条件づけの原則を応用して開発されました。その目的は、嗜癖による悪影響を軽減し、個人が健康的で薬物を使用しない生活を送れるように支援することにあります。CRAは、個人のライフスタイルに肯定的な変化をもたらす多様な肯定的な強化を増やすことで、アルコールや薬物の使用と競合する健康的な行動を促進します。CRAは通常、特定の期間（例えば16回のセッションまたは1年間など）で実施される期間限定の治療プログラムとして設定されます。

CRAFTの特徴と目的

CRAFTは、このCRAの考え方を物質使用問題のある本人（ identified Patient: IP）の周囲にいる大切な人々、すなわち主な関係者（Concerned Significant Others: CSO）を通じて応用するものです。特に、物質使用の問題を抱えながらも治療を受けることに消極的、あるいは拒否的なIPに対し、CSOが建設的に関わることで、本人が自ら治療を開始し、継続する可能性を高めることを目指します。同時に、嗜癖行動によって損なわれがちなCSO自身の生活の質を改善することもCRAFTの重要な目的の一つです。CRAFTは、望ましい行動に対する健全な報酬を活用する方法をCSOに教え、IPとCSO双方にとってより良い関係性と生活を築くための支援を提供します。

CRAFTの主要な目標は以下の3点です。

大切な人（IP）が専門的な治療を受けるよう促すこと。
大切な人のアルコールや薬物使用を減らすこと。
CSO自身の生活を同時により良くすること。

CSOは通常、IPが治療を受けることに対して強い動機を持っていますが、IP自身は治療に抵抗を示すことが多いという現状理解から、CRAFTはCSOをエンパワメントすることに焦点を当てています。

有効性に関する研究

CRAFTの効果を他の支援アプローチと比較した研究があります。Al-AnonやNar-Anon（自助グループに基づく促進療法）と比較した試験では、嗜癖者が治療に至る割合がAl-Anon/Nar-Anonでは29.0%であったのに対し、CRAFTでは67.2%と有意に高い導入率を示しました。また、Al-Anon、ジョンソン研究所による介入法（家族による対決的手法）、CRAFTを比較した別の研究では、どの手法でもCSOの機能やIPとの関係性は改善しましたが、治療に消極的であった問題飲酒者が治療を開始した割合は、Al-Anonで13%、ジョンソン研究所介入法で30%であったのに対し、CRAFTでは64%と、ここでもCRAFTが最も高い治療導入率を示しました。

ロバート・J・マイヤーズ博士らは、CSOがIPの治療開始だけでなく、自分自身のウェルビーイングに対しても良い影響を与えることができると指摘しています。

CRA/CRAFTにおける主な手続き

CRAFTでは、CRAで用いられる様々な技法がCSOへの訓練を通じて活用されます。主な手続きには以下が含まれます。

物質使用の機能分析: 物質使用行動の引き金となる状況（先行事象）や、使用後に得られる肯定的な結果（好子）や回避される否定的な結果（嫌子）を特定します。
素面試し: 長期的な断酒・断薬に向けて、まず短期間だけでも物質使用を控えることに同意を促します。
CRA治療プラン: IPが生活の中で重要と考える領域（例：仕事、人間関係、趣味）で具体的かつ有意義な目標を設定し、それを達成するための具体的なステップを計画します。
評価ツール: 幸福スケール、カウンセリングの目標設定用紙などが用いられます。
行動スキル訓練: 問題解決スキル、コミュニケーション・スキル、主張性訓練などが含まれます。例えば、コミュニケーションスキルでは、建設的な会話方法や、物質使用を断るための方法を学びます。
就労スキル訓練: 良い仕事を見つけ、維持するための基本的なスキルを習得します。
社交と余暇のカウンセリング: 新しい健康的で楽しい社交や余暇活動を見つけ、試す機会を提供します。
再発予防: 再発のリスクが高い状況を特定し、再発の兆候に気づき、対処する方法を学びます。
人間関係カウンセリング: IPとパートナーなど重要な他者との関係性を改善するための支援を行います。

CRAFTにおけるコミュニケーション

CRAFTでは、CSOに対して様々なコミュニケーションスキルが訓練されます。特に重要なのは、IPとのやり取りにおいてポジティブなコミュニケーションを実践することです。これにより、IPがCSOの話を聞き入れやすくなり、建設的な対話が進む可能性が高まります。

ポジティブなコミュニケーションのための具体的なステップが訓練されます。

簡潔に話す。
ポジティブな言葉を使う。
具体的な行動について言及する。
自分の感情を明確に伝える。
思いやりを示す発言をする。
自分自身の責任の一部を認める。
* 支援を申し出る。

これらのコミュニケーション戦略の究極的な目標は、IPの心を開き、CSOのメッセージが伝わる可能性を最大限に高めることにあります。単にメッセージを伝えるだけでなく、その後の結果に対する揺るぎない一貫した対応、特に肯定的な強化子の効果的な活用が、コミュニケーションの成果を大きく左右します。

CRAFTは、治療に抵抗する個人とその周囲の大切な人々、双方にとって希望をもたらす実践的なアプローチとして、その有効性が確立されています。

関連情報

CRAFTやCRAは、行動主義や認知行動療法といった心理学の考え方と関連が深いです。また、物質使用問題や家族の支援に関わる団体として、Al-Anon/Alateen、スマート・リカバリー、そして研究機関として米国国立アルコール乱用・依存症研究所（NIAAA）、米国国立薬物乱用研究所（NIDA）、アメリカ心理学会（APA）などがあります。ドメスティック・バイオレンス（DV）のような家族間の問題が背景にある場合にも、適切な対応が必要です。

CRAFTは、嗜癖治療へのアプローチとして、特に治療導入段階における効果の高さと、家族自身のエンパワメントという点で注目されています。

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