コロンゾン

コロンゾン：アレイスター・クロウリーが召喚した悪魔

20世紀初頭、イギリスの魔術師として知られるアレイスター・クロウリーは、自身の魔術実践において、コロンゾン(Choronzon)と呼ばれる悪魔を召喚したと記録しています。コロンゾンは単なる悪霊ではなく、邪悪な意識の集合体、あるいは混沌そのものを象徴する存在として捉えられています。知識の探求者を様々な手段で誘惑し、その道を阻む存在として、オカルトの世界において重要な位置を占めています。

その名はギリシャ語に由来し、「不能」や「怠惰」といった意味合いを持っています。この名称からも、コロンゾンの性質が、行動の阻害や精神的な停滞と関連していることが推測できます。さらに、「離散」と「矛盾」といった相反する性質を併せ持つともされており、その存在は理解しがたい、多面的なものと言えるでしょう。

コロンゾンの召喚は、1909年、アルジェリア南部の砂漠で行われたとされています。クロウリーは弟子であるヴィクター・ニューバーグと共に、複雑な儀式を執り行いました。この儀式には、喉を掻き切った鳩が重要な役割を果たしています。鳩は三角形の形に配置され、その中央にクロウリーが入り、ニューバーグが周囲で呪文を唱えました。

儀式が進むにつれ、コロンゾンはクロウリーに憑依し、様々な姿形を変えながら、ニューバーグを誘惑し、魔法陣からの脱出を試みました。一度は魔法陣から飛び出し、ニューバーグに襲いかかる場面もあったと伝えられています。しかし、ニューバーグがテトラグラマトン（ユダヤ教における神の名）を呼び出すと、コロンゾンは再び魔法陣の中に閉じ込められました。そして、召喚の触媒であった鳩の血が尽きた時に、コロンゾンは姿を消したとされています。クロウリー自身は、儀式の間、恍惚状態にあったと述べています。

この召喚儀式において、有名な呪文「Zazas Zazas Nasatanada Zazas」（ザーザース、ザーザース、ナースタナーダー、ザーザース）が用いられたとされています。この呪文は、コロンゾンが叫んだ言葉だと伝えられていますが、実際にはクロウリー自身が唱えた可能性も高いです。しかしながら、この呪文はコロンゾンの力を呼び込み、その影響を媒介する役割を果たしたと考えられます。

クロウリーは、この経験を自身の著作『法の書』や『霊視と幻聴』などに記しており、それらはコロンゾンの性質や召喚儀式に関する貴重な情報源となっています。彼の記述からは、コロンゾンが単なる想像上の存在ではなく、クロウリー自身の精神世界や魔術実践において、極めて重要な役割を果たした存在であったことが窺えます。

コロンゾンの存在は、現代においてもオカルト研究者やクリエイターたちに影響を与えています。ゲームや小説など様々な創作物において、コロンゾンは混沌や邪悪の象徴として登場し、その神秘的な存在感は、人々の想像力を掻き立て続けています。コロンゾンに関する研究は、魔術史や精神世界の理解を深める上で、重要な役割を果たすと考えられます。その実像は未だ謎に包まれていますが、コロンゾンを取り巻く物語は、オカルトの世界における永遠のテーマとして、語り継がれていくことでしょう。

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