コンスタンス・ケント

コンスタンス・エミリー・ケント（1844年2月6日 - 1944年4月10日）は、19世紀のイギリスで起きた有名な幼児殺害事件の犯人として、後年になって自ら告白した女性です。彼女の事件は、当時の社会に大きな衝撃を与え、聖職者の告解における守秘義務の問題を提起しました。ここでは、コンスタンス・ケントの生涯と、彼女が関わったとされる事件の詳細を解説します。

事件の概要

1860年6月29日から30日にかけて、コンスタンスの異母弟であるフランシス・サヴィル・ケント（当時4歳）が、ウィルトシャー州の自宅から姿を消しました。その後、男児は敷地内の屋外便所で遺体となって発見されました。遺体は寝間着姿で毛布に包まれ、胸と両手に複数の刺し傷があり、喉は深く切り裂かれ、頭部がほぼ切断された状態でした。

当初、フランシスの乳母が拘束されましたが、すぐに釈放され、捜査はコンスタンス（当時16歳）に移りました。コンスタンスは逮捕されたものの、世論の反発により公判は開かれず釈放されました。その後、一家はウェールズに移り、コンスタンスはフランスの寄宿学校に送られました。

告白と裁判

事件から5年後の1865年、コンスタンスは殺人罪で訴追されました。彼女は、聖職者アーサー・ワグナー師に犯行を告白し、自ら処罰を受ける意思を示しました。ワグナー師は、治安判事の前でコンスタンスが犯行を告白したことを証言しましたが、告解における守秘義務を理由に、詳細な内容については語ることを拒否しました。

コンスタンスの告白によると、事件当日、彼女は家族と使用人が寝静まるのを待ってから、客間に降りて窓を開けました。その後、2階の子供部屋からフランシスを毛布で包んで連れ出し、事前に盗んでおいた剃刀で屋外便所内で殺害しました。殺害は計画的なもので、復讐の意図があったことが示唆されています。

事件の背景

コンスタンスの告白後、彼女の父親であるサミュエル・ケントが真犯人ではないかという推測も多くありました。サミュエルは、最初の妻の死後、乳母と再婚しており、その過程で不倫関係があったとされており、道徳的な非難を浴びていました。

また、作家ケイト・サマースケイルは、コンスタンスの犯行は弟ウィリアム・サヴィル＝ケントを庇うためのものであった可能性があると指摘しています。コンスタンスとウィリアムは非常に親密な関係にあり、父親が再婚後の子供たちをかわいがる一方で、彼らには関心を払わなかったことが、姉弟の絆をより深めたと考えられています。サマースケイルは、ウィリアムが共犯者であった可能性も示唆しています。

コンスタンスは、父親の死後も弟の死後も告白を撤回することはなく、動機についても沈黙を守り続けました。

報道と議論

巡回裁判でコンスタンスは罪を認め、有罪が確定しました。この事件は、聖職者の告解守秘義務をめぐり、大きな議論を呼びました。聖職者が告解で知り得た情報を開示する義務があるのか、それとも守秘義務を優先すべきなのかという問題が、議会でも取り上げられました。最終的に、聖職者の守秘義務は法的に認められないという見解が示されました。

その後の人生

コンスタンスは死刑判決を受けましたが、未成年であったことと自首したことが考慮され、終身刑に減刑されました。20年間服役した後、1885年に釈放されました。その後、彼女はオーストラリアに移住し、看護師として働きました。名前をルース・エミリー・ケーと改め、1944年に100歳で亡くなりました。

事件の影響

コンスタンス・ケントの事件は、文学作品にも影響を与えました。メアリー・エリザベス・ブラッドンの『Lady Audley's Secret』や、ウィルキー・コリンズの『月長石』、チャールズ・ディケンズの『エドウィン・ドルードの謎』などに、事件の要素が取り入れられています。また、映画『Dead of Night』の一編も、この事件をモチーフにしています。

コンスタンス・ケント事件は、19世紀イギリス社会における複雑な人間関係と、司法制度、宗教、道徳観が絡み合った事件として、今もなお多くの人々の関心を集めています。

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