コンタミネーション

コンタミネーションとは

コンタミネーション（contamination）は、英語で「汚染」を意味する言葉ですが、特に科学実験の場においては、本来混入するべきでない物質が混入することを指す専門用語として用いられます。日本語では「実験汚染」「実験室汚染」「試料汚染」などと訳されることもありますが、一般的には「コンタミネーション」または略して「コンタミ」と呼ばれることが多いです。

コンタミネーションは、実験結果に悪影響を及ぼし、実験の失敗や事故の原因となるため、厳重な対策が必要です。また、製造現場においても、製品の品質を低下させる要因となるため、注意が必要です。

コンタミネーションの概要

コンタミネーションは、微生物や放射性同位体を扱う実験など、周囲の環境と実験環境を厳密に区分けする必要がある実験系で、一方の環境からもう一方に、本来混入するべきでない物質が混入した場合に問題となります。

コンタミネーションが発生する分野は多岐にわたり、生物学、分子[[生物学]]、放射線科学、考古学など、様々な科学分野で問題となります。各分野によってコンタミネーションの事例や原因物質、対策方法などは異なり、コンタミネーションが示す意味にも若干の違いが生じます。

コンタミネーションは大きく2つのパターンに分類できます。

環境中の異物が実験系に混入する
例：培養実験中に培地に雑菌が混入する、RNA実験中にRNaseが混入する
実験材料が生活環境に漏れ出す
例：放射性同位体を実験台にこぼす

前者の場合は実験の失敗、後者の場合は実験者の被曝や周辺環境の汚染などの実験事故につながる可能性があります。

人気漫画「動物のお医者さん」で登場したことから、専門分野だけでなく一般にも使われることがあります。

各分野での事例

生物学

生物学分野では、特に細胞や微生物などを人工的に培養する際に、雑菌が混入することをコンタミネーションと呼ぶことが多いです。また、ヒトや環境生物に対して病原性を持つ細菌やウイルスなどで実験室や実験者が汚染された場合もコンタミネーションと呼ぶことがあります。

雑菌混入

生物学の実験では、細菌、菌類、培養細胞、ウイルスなどの生物材料を実験的に培養して利用することがあります。これらの材料は、他の生物などの混入がない状態で（その培地中には、その生物材料以外に生きたものが含まれない状態で）培養する必要があります。これを純粋培養、あるいは純培養と呼びます。

純粋培養を行うためには、培地や培養器具を滅菌して生物を全く含まない状態にし、実験中に空気中や滅菌されていない器具、実験者の手指などから雑菌が混入しないように操作する必要があります。このような実験手技を無菌操作と呼びます。

無菌操作が不十分だと、培地に雑菌が混入して増殖し、実験を正しく行うことができなくなります。そのため、実験結果の信頼性が失われ、実験は失敗に終わります。

雑菌が混入した場合、液体培地では取り除くことが難しいため、純粋培養をやり直す必要があります。一方、固形培地では、コンタミが表面に塊を作るため、早期であれば除去できる可能性があります。

バイオハザード

ヒトに対する病原体や、環境に広まると重大な被害を及ぼす可能性のある病原体を扱う場合、実験材料を誤ってこぼしたり、実験者に付着した場合もコンタミネーションの一種とみなされ、特にバイオハザードと呼ばれます。詳細はバイオハザードの項目を参照してください。

その他

免疫担当細胞を培養する実験では、エンドトキシン（内毒素）が水にコンタミしていると問題になることがあります。エンドトキシンは細菌の細胞壁由来の成分で、免疫担当細胞に影響を与え、実験結果に影響を与えることがあります。

分子[[生物学]]

分子[[生物学]]分野でも、遺伝子組換え実験などで雑菌混入やバイオハザードがコンタミネーションとして問題となります。また、分子[[生物学]]特有の問題として、RNaseのコンタミネーションや遺伝子組換え生物による遺伝子汚染が挙げられます。

RNaseのコンタミネーション

RNaseはRNAを分解する酵素です。RNAを扱う実験では、RNaseが混入するとRNAが分解されてしまい、正しい結果を得ることができません。RNaseは熱に強く、通常の滅菌処理では完全に除くことができないため、特別な対策が必要です。RNA実験に用いる水は、あらかじめDEPCで処理することでRNaseを破壊し、その後、DEPCの毒性を除くためにオートクレーブ処理して用います。

遺伝子組換え生物による遺伝子汚染

遺伝子組換え生物が環境に漏出すると、生態系に悪影響を与える可能性があります。遺伝子組換え実験は、管理区域内で正しく行わなければなりませんが、実験中の誤操作によって実験室や実験者が汚染されると、汚染が広がる危険性があります。遺伝子組換え作物の場合は、受粉による遺伝子汚染が問題視されており、繁殖能力を持たない作物を用いるなどの対策が取られています。

化学

化学分野におけるコンタミネーションは、想定外の化学物質の混入を指します。試薬の純度が低い場合や、器具の洗浄が不十分な場合に発生し、スペクトルのピークが不明瞭になったり、収率が大幅に低下するなど、実験結果に悪影響を及ぼします。ごく稀に、予期せぬ触媒として働き、新規な化学反応の発見につながることもあります。

放射線科学

放射線科学では、放射性物質による汚染がコンタミネーションとなります。放射性物質の漏洩は、人体への被曝や環境汚染を引き起こすため、厳重な管理が必要です。

古生物学

古生物学、特に微化石を扱う微古生物学では、試料間の混入（クロス・コンタミネーション）が問題となります。試料処理の段階における器具の洗浄不良などにより、他の試料からの混入が発生すると、地層の同定や古環境分析に致命的な失敗をもたらします。

製造検査過程

産業界では、機械加工などで加工された金属・非金属部品に残留する付着異物を総称して「コンタミ」と呼びます。これらの異物が部品の機能を阻害する場合、コンタミとして品質管理の対象となります。コンタミの測定には、重量法や画像処理法などが用いられます。

言語学

言語学では、混淆（こんこう）をコンタミネーションと呼びます。意味や語形の似た二つの語や構文が混合し、新しい単語や構文ができる現象を指します。

文献学・書誌学

文献学・書誌学では、異種の系統の本文を取り合わせて作られた合成本文・混成本文をコンタミネーションと呼びます。

その他の分野

ガソリンスタンド：誤給油、油種混入
米穀業界：米への異物混入、異品種の米の混入
油圧：油圧回路中に混入した異物、水分
化学メーカー：製品への異物混入

クロス・コンタミネーション

コンタミネーションの一種に、クロス・コンタミネーションと呼ばれるものがあります。これは検査試料や実験対象になるサンプル間での混入を意味します。医療分野でのクロス・コンタミネーションは、誤った診断結果から医療ミスにつながる可能性があるため、特に注意が必要です。

クロス・コンタミネーションを避けるためには、実験器具や測定機器を適切に洗浄したり、使い捨ての器具を使用したりする必要があります。また、物質の濃度が既知の場合は、薄い方から濃い方の順に扱うことで、前のサンプルからの混入を防ぐことができます。

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