コンチェルト・デュ・ヴァン〜風のコンチェルト

「コンチェルト・デュ・ヴァン〜風のコンチェルト」（Concerto du vent）は、日本の作曲家である本多俊之によって2005年に作曲された、サクソフォーンとオーケストラのための協奏曲です。この作品は、世界的に活躍するサクソフォーン奏者、須川展也氏からの委嘱に応えて誕生しました。須川氏は、クラシック音楽におけるサクソフォーンの新たな可能性を探求し、多くの作曲家に作品を依頼することで、この楽器のレパートリー拡充に大きく貢献しています。本作も、その活動の中から生まれた重要な成果の一つと言えます。

サクソフォーンは比較的新しい楽器でありながら、その表現の幅広さから多くの作曲家を魅了し、独奏楽器としてオーケストラと共演する協奏曲も数多く生み出されてきました。しかし、著名な作品の数においてはピアノやヴァイオリンといった伝統的な楽器に比べてまだ少なく、須川氏のような演奏家による委嘱活動は、この分野の発展にとって非常に大きな意味を持っています。

この「コンチェルト・デュ・ヴァン」の歴史における特筆すべき出来事は、その初演です。作品が完成した年である2005年の11月23日に、東京において初演されました。独奏サクソフォーンは、もちろんこの作品の委嘱者であり、日本を代表する奏者である須川展也氏自身が務めました。指揮は岩村力氏が執り、オーケストラは日本フィルハーモニー交響楽団が演奏を担当しました。この初演によって、「コンチェルト・デュ・ヴァン」は初めて公の場で披露され、聴衆にその姿を現しました。

初演後も、この作品は重要な演奏機会を得ています。特に特筆すべきは、翌2006年9月に須川展也氏が開催した、自身の委嘱作品に焦点を当てたコンサートでの演奏です。このコンサートは、須川氏がこれまでに日本の作曲家に委嘱して生まれたサクソフォーン協奏曲を集めた画期的な企画であり、その中で「コンチェルト・デュ・ヴァン」も再び演奏されました。この演奏会では、指揮を斉藤一郎氏、オーケストラを東京フィルハーモニー交響楽団が務めました。こうした複数回にわたる著名な演奏団体による再演は、作品が演奏家や聴衆に受け入れられ、レパートリーとして定着していく上で重要な役割を果たしています。

作品は全3楽章から構成されており、各楽章にはフランス語の標題とその邦訳が併記されています。これらの標題は「風」を共通の主題としており、作品全体の音楽的な性格や雰囲気に深く関連していることがうかがえます。

各楽章の標題は以下の通りです。

第1楽章 Un vent propice〜順風
第2楽章 La marque du vent〜風紋
* 第3楽章 Un nouveau vent〜新風

これらの標題は、単なる装飾ではなく、各楽章の音楽が持つイメージやインスピレーションの源泉を示唆していると考えられます。例えば、「順風」という標題からは前向きで勢いのある楽想、「風紋」からは静謐で繊細な表現、「新風」からは清新さや力強さといった印象を受けるかもしれません。作曲家がこれらの言葉に込めた音楽的な意図は、実際に演奏される音楽を通してより具体的に感じ取ることができるでしょう。

「コンチェルト・デュ・ヴァン」は、作曲家・本多俊之の現代的な音楽語法と、サクソフォーンの持つ豊かな表現力が融合した作品と言えるでしょう。須川展也氏という世界的なサクソフォーン奏者からの委嘱と、氏自身による初演によって生み出され、その後の演奏機会にも恵まれており、日本の現代音楽におけるサクソフォーン協奏曲の分野において重要な位置を占めています。

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