コンプライアンス 服従の心理

コンプライアンス 服従の心理：社会実験のような衝撃の物語

2012年公開のアメリカ映画『コンプライアンス 服従の心理』は、2004年に実際に発生したいわゆる「ストリップサーチいたずら電話詐欺事件」を題材にしたスリラー作品です。クレイグ・ゾベル監督・脚本による緊迫感あふれる演出と、アン・ダウドら実力派俳優陣の熱演が光る、人間の従順性と権威への盲従を問う問題作となっています。

物語：日常を侵食する恐怖

舞台はアメリカのファストフード店。主人公は、サンドラという中年女性マネージャーです。ある日、警察官を名乗る男ダニエルズから電話を受けます。ダニエルズは、店の従業員が金を盗んだと告げ、容疑者としてベッキーという若い女性を指名します。

ダニエルズの指示は、次第にエスカレートしていきます。最初は、ベッキーを呼び出して事情聴取をすることから始まりますが、やがて、身体検査を要求するようになります。サンドラは、マネージャーとしての責任感、そしてダニエルズの威圧的な態度に屈し、ベッキーに服を脱がせるなど、違法かつ不条理な行為を強要されてしまうのです。

ベッキーは、自分の潔白を訴えますが、ダニエルズの巧妙な言葉とサンドラの揺らぐ判断によって、事態はさらに悪化。サンドラは、次第に理性と良心を失い、ダニエルズの指示通りに行動してしまうのです。この過程で描かれる、サンドラの葛藤と心理的な変化は、観る者の心に深い衝撃を与えます。

キャスト：実力派俳優陣による圧巻の演技

主人公サンドラを演じるのは、アン・ダウド。彼女の圧倒的な演技は高く評価され、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞助演女優賞を受賞しました。ベッキー役にはドリーマ・ウォーカー、警察官を名乗るダニエルズ役にはパット・ヒーリーなど、実力派俳優たちが脇を固めます。彼らの演技によって、物語はより一層のリアリティを増し、観る者を深い心理劇へと引き込みます。

社会への問いかけ：権威への服従と人間の脆さ

本作は、単なるサスペンス映画にとどまりません。ミルグラム実験やスタンフォード監獄実験を彷彿とさせる、人間の従順性と権威への盲従をテーマにしています。日常的な状況下で、権威ある人物の指示に従ってしまう人間の脆さ、そしてその結果生じる悲劇的な結末は、私たち自身の倫理観と正義感を問いかけるものです。

評価とその後：賛否両論と商業的な成功

Rotten Tomatoesでの支持率は89％と高く評価されていますが、商業的には必ずしも成功したとは言えないようです。配給元のマグノリア・ピクチャーズは、本作の採算割れを理由に、アン・ダウドの賞レース参戦のためのDVD配布費用を負担しませんでした。そのため、アン・ダウドは自費で1万3000ドルを調達するというエピソードも残っています。このエピソードは、映画そのもののテーマとも深く関連しており、興味深い対比となっています。

まとめ：見終わった後に考えさせられる作品

『コンプライアンス 服従の心理』は、単なるエンターテインメント作品としてだけでなく、社会心理学的な側面からも非常に興味深い作品です。人間の心理の深淵を覗き込むような、観終わった後も長く心に残り続ける衝撃的な作品と言えるでしょう。 社会実験のような、人間の弱さと強さ、そして権力と服従の関係性を考えさせられる、忘れられない映画体験となるはずです。

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