コールド・スプリング・ハーバー〜ピアノの詩人

『コールド・スプリング・ハーバー〜ピアノの詩人』は、ビリー・ジョエルが1971年に発表した記念すべきソロデビューアルバムです。ザ・ハッスルズ、アッティラといったバンドでの活動を経て、シンガーソングライターとしての第一歩を踏み出しました。

レコーディングは主にロサンゼルスで行われましたが、「ホワイ・ジュディ・ホワイ」と「ユー・ルック・ソー・グッド・トゥ・ミー」の2曲はニューヨークで録音されました。しかし、このアルバムには、制作段階で大きな問題が発生しました。テープの回転数が意図せず早い状態でマスタリングされてしまったのです。完成したアルバムを聴いたビリー・ジョエルは、その出来に失望し、レコードを道に投げつけたというエピソードが残っています。また、彼はプロデューサーのアーティ・リップの完璧主義的な姿勢にも不満を抱いていたと語っています。

発表当初、アルバムは商業的な成功を収めることはできませんでした。しかし、収録曲の「シーズ・ガット・ア・ウェイ」は、1981年に発表されたライブ・アルバム『ソングズ・イン・ジ・アティック』に収録されたバージョンがシングルカットされ、全米23位にランクインするヒットとなりました。この曲によって、アルバム自体も再評価されるようになります。

1983年には、本作はコロムビア・レコードから再発されました。再発に際して、オリジナル盤の問題点であった回転数の修正が行われただけでなく、バッキング・トラックも編集されました。特に、「ユー・キャン・メイク・ミー・フリー」は、オリジナル盤では5分ほどの長さだったものが、3分程度に短縮されています。再発版は全米アルバムチャートにチャートインし、1984年には全米158位を記録しました。

アルバムには、ビリー・ジョエル自身が作詞作曲した以下の楽曲が収録されています。

1. シーズ・ガット・ア・ウェイ
2. ユー・キャン・メイク・ミー・フリー
3. エヴリバディ・ラヴズ・ユー・ナウ
4. ホワイ・ジュディ・ホワイ
5. フォーリング・オブ・ザ・レイン
6. ターン・アラウンド
7. ユー・ルック・ソー・グッド・トゥ・ミー
8. トゥモロー・イズ・トゥデイ
9. ノクターン (インストゥルメンタル)
10. ゴット・トゥ・ビギン・アゲイン

参加ミュージシャンは以下の通りです。

ビリー・ジョエル - ボーカル、ピアノ、オルガン、ハープシコード、ハーモニカ
ジョー・オズボーン - ベース
ラリー・ネクテル - ベース
ライス・クラーク - ドラムス
デニー・シーウェル - ドラムス
ドン・エヴァンス - ギター
サル・デ・トロイア - ギター
スニーキー・ピート - スティール・ギター
マイク・マクギー - ドラムス(on 3. 6.)
アル・キャンベル - キーボード(on 6.)
* L.D.ディクソン - [エレクトリックピアノ]

『コールド・スプリング・ハーバー〜ピアノの詩人』は、ビリー・ジョエルのキャリアの出発点となった作品であると同時に、制作時のトラブルや再発時の修正など、様々なエピソードを持つアルバムとして、音楽史にその名を刻んでいます。

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