ゴールの旧市街と要塞

ゴールの旧市街と要塞：歴史と文化が交錯する世界遺産

スリランカ南部の港町ゴールに位置する旧市街と要塞は、ユネスコの世界遺産に登録されています。この地は、古くから交易の拠点として栄え、その歴史はヨーロッパ人が到達する以前に遡ります。16世紀以降、ポルトガル、オランダ、イギリスといったヨーロッパ列強の支配を受け、それぞれの文化が混ざり合い、独特の景観を形成しました。

ポルトガルによる支配と要塞の始まり

1505年、ポルトガル船が偶然ゴールに到達し、1507年から貿易が開始されました。ポルトガル人はこの地に拠点を築き、防備を固め始めます。1625年には、3つの稜堡とサンタ・クルズ砲台が設置され、これが現在のゴール要塞の原型となりました。

オランダによる改築と要塞の完成

1640年、オランダ軍がポルトガル拠点を陥落させ、ゴールはオランダ海上帝国の一部となりました。オランダはポルトガル時代の都市計画を基礎としつつも、大幅な改築を行い、現在のゴールの基本的な形を作り上げました。1663年には旧市街を囲む城壁が築かれ、1669年には主要な3つの稜堡を含む要塞が完成しました。これらの稜堡は、オランダ語で星、太陽、月を意味するステル、ゾン、マアンと名付けられ、現在もそれぞれスター、サン、ムーンと呼ばれています。

イギリスによる支配と街並みの保存

18世紀になると、イギリスへの警戒から要塞が強化されましたが、1796年にゴールはイギリスの支配下に入ります。しかし、無血譲渡であったため、多くの建造物が破壊を免れました。19世紀後半にはコロンボが主要な交易拠点となったため、ゴールは地方商業の拠点となりましたが、そのおかげで街並みが良好に保存されることになりました。

世界遺産としての登録対象

ゴール市内は、要塞が残るフォート・エリア、ムスリム商人の多い商店街エリア、仏教寺院が多く見られる住宅地エリアの3つに大別されます。世界遺産の対象となっているのは、このうちフォート・エリアです。フォート内は、オランダ植民都市の特徴である格子状の街路が走っていますが、地形に合わせて若干の変形が見られます。このエリアには、オランダ改革派教会（1752年）、諸聖人教会（1871年）、メソジスト教会など、キリスト教の教会が残っています。かつてはカトリックの聖堂もありましたが、17世紀にオランダによって取り壊され、その跡地には仏教寺院のウィクラマシンハ寺院（1889年）が建てられました。

現在、フォート・エリアにはムスリムが多く居住しており、モスクも4つあります。その中には、オランダ植民都市時代に起源を持つメーラ・モスク（1904年）も含まれています。このように、キリスト教、仏教、イスラム教の施設が混在している一方で、ヒンドゥー教の寺院は存在しません。

歴史的建造物と排水システム

旧ゴール総督府をはじめ、旧兵舎（郵便局）、旧オランダ軍病院（地方役場）、旧商業銀行（セイロン商業銀行）など、オランダ時代の建造物が現存し、用途を変えながらも使われています。フォート内の住居群には、オランダ式の様式が見られますが、ベランダや中庭の配置には地元の様式との融合が見られます。オランダの技術が活かされた排水システムも重要です。海抜0m以下の地域があるフォートでは、潮の満ち引きを利用した排水システムが構築され、後にイギリスによって風車が設置されました。

世界遺産登録の経緯と基準

1986年12月31日に世界遺産推薦が行われ、1988年に正式登録が認められました。登録名称は、「ゴールの旧市街と要塞」です。この世界遺産は、以下の登録基準を満たしています。

* (4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例

ICOMOSの勧告では、「ゴールは16世紀から19世紀におけるヨーロッパの建築と南アジアの伝統の相互作用を例証する都市建造物群の顕著な例を提供している」と評価されており、特に17世紀当時の排水機構がその価値を高めているとされています。

ゴールの旧市街と要塞は、歴史と文化が深く交錯した場所であり、その独特の景観は世界中の人々を魅了し続けています。

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