サイバースクワッティング

サイバースクワッティングとは

サイバースクワッティングとは、インターネットのドメイン名を、特定の企業名や有名な商標などを悪用する目的で、権利者よりも先に取得し、その後、そのドメイン名を権利者に対して高額で売りつけたり、自らの利益のために利用したりする不正な行為を指します。

この言葉は、サイバー空間を意味する「サイバー（cyber）」と、不法占拠や居座りを意味する「スクワッティング（squatting）」を組み合わせた造語であり、「ドメイン占拠」や「サイバースクワット」とも呼ばれます。

なぜ問題が起きるのか

本来、ドメイン名は投機の対象とされるべきではありません。しかし、ドメイン名の取得システムにおいては、「早い者勝ち」が原則とされている場合が多く、また、取得申請時に商標との関連性が十分にチェックされないことがあります。さらに、一人で複数のドメイン名を取得できたり、取得したドメイン名を自由に譲渡できたりする仕組みが存在するため、これを悪用する者が現れます。

こうした状況下で、サイバースクワッターは、企業の社名や製品・サービス名、有名な商標などを模倣したドメイン名を、本来の権利者よりも先に取得します。これにより、その企業は同一のドメイン名を取得できなくなり、やむなくサイバースクワッターから高値で買い取るか、別のドメイン名を使用せざるを得ない状況に追い込まれます。

また、意図的なミスタイプを誘うような、有名商標に似たドメイン名を多数取得する行為も横行しており、これは「タイポスクワッティング」と呼ばれ、サイバースクワッティングの一種と見なされます。

解決のための法制度と手続き

ドメイン名を巡る紛争の解決は、国境を越えるインターネットの特性から複雑になりがちです。国際的には、ICANN（Internet Corporation for Assigned Names and Numbers）が定めたUDRP（Uniform Domain-Name Dispute-Resolution Policy：統一ドメイン名紛争処理方針）に基づく紛争解決手続きが広く用いられています。UDRPでは、第三者機関の裁定により、不正に取得されたドメイン名の取り消しや正当な権利者への移転などが認められる場合があります。

ただし、UDRP手続きは比較的迅速ではありますが、手続きがやや大企業寄りの運用になりがちであるといった批判も存在します。また、UDRPによる裁定には法的な強制力がなく、裁判所の判決によって覆される可能性もあります。

裁判による解決も選択肢となりますが、原告、被告、ドメイン名に関連するサーバーの所在地などによって、どの国のどの裁判所に管轄権があるかが争点となり、複雑化しやすいという問題があります。訴訟には多大な時間と費用がかかるため、UDRPが選ばれることが多い傾向にあります。

国によっては、より強力なサイバースクワッティング対策のための特別な法律を設けています。例えば、アメリカ合衆国では1999年に反サイバースクワッティング消費者保護法（ACPA）が制定され、悪意を持って他者の商標を含むドメイン名を取得した者に対し、損害賠償（上限10万ドル）を請求できるようになりました。

UDRPによる勝訴では、ドメイン名の削除や移転が可能ですが、削除された場合に第三者に再取得されるリスクが残るなどの課題もあります。一方、ACPAのような法律の下では、金銭的な賠償請求が可能となり、より実効性のある対策となり得ます。

なお、サイバースクワッティングに対抗する過程で、正当な権利者でない企業や個人が、一般的な単語や記述的なドメイン名を保有する者に対し、虚偽の商標侵害を主張してドメインを奪おうとするケースも発生しており、これは「ドメイン名の逆ハイジャック（reverse domain hijacking）」と呼ばれ、同様に問題視されています。

サイバースクワッティングという言葉が、悪意のない一般的なドメイン名の売買を指して誤用されることもあります。特に、説明的な意味を持つドメイン名は希少価値が高いため、一部の悪質な事業者がこの誤用を利用して、正当な保有者からドメイン名を不当に奪取しようとする試みも見られます。

日本におけるサイバースクワッティングと対策

日本でも過去には、企業名や商標を含むドメイン名が第三者に先取りされ、権利者が大きな不利益を被る事例が相次ぎました。例えば、大手百貨店の松坂屋（matsuzakaya.co.jp）、信販会社のジャックス（jaccs.co.jp）、携帯電話会社のジェイフォン（j-phone.co.jp）などが巻き込まれたケースが知られています。

かつては、ドメイン名の取得が「早い者勝ち」原則で、商標権のような法的な保護が十分に確立されていなかったため、被害を受けた企業は有効な対抗手段が限られ、泣き寝入りするしかない状況も見られました。

こうした問題を解決するため、1998年には日本弁護士連合会と弁理士会が設立した工業所有権仲裁センター（現在の日本知的財産仲裁センター）が、2000年には日本ネットワークインフォメーションセンター（JPNIC）との連携により、.jpドメインに関する紛争の裁定を行う制度が導入されました。これにより、不正取得と判断されたドメイン名を正当な権利者へ移転させることが可能になりましたが、この裁定自体に直接的な法的な強制力はありませんでした。

より実効性のある対策として、2001年には不正競争防止法が改正され、「不正な目的をもってドメイン名を使用等する行為」が明確に不正競争行為として規定され、サイバースクワッティングが違法行為と位置づけられました。これにより、権利侵害を受けた企業は、差止請求や損害賠償請求などの法的手段を取りやすくなりました。

さらに、.co.jpドメインにおいては、サイバースクワッティングを未然に防ぐための運用方針がJPNICによって定められています。例えば、原則として一つの組織が複数の.co.jpドメイン名を登録できない、登録されたドメイン名は原則として譲渡できない、といった制限があります。また、申請内容に虚偽があった場合の登録無効や取消、架空の団体・個人による不正取得を防ぐための登記簿確認なども行われています。

こうした法制度の整備と運用ルールの強化により、日本におけるサイバースクワッティングに対する対策は以前に比べて大きく進展しています。

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