サンタバリー

サンタバリー（Sentebale）

サンタバリーは、2006年に英国王室のヘンリー王子とレソト王室のセーイソ王子によって共同で設立された慈善団体です。ヘンリー王子が学業修了後の長期旅行でレソトを訪れた際、セーイソ王子と出会い、その国土と人々の状況に深く心を動かされたことが設立の契機となりました。特に、レソト国内の脆弱な子供たちや若者たちを支援したいという強い思いからこの団体が生まれました。

団体の名称「サンタバリー」は、レソトの公用語であるソト語で「私のことを忘れないで」という意味を持ちます。この名前には、「レソト、そしてそこに暮らす子供たちのことを、世界中の人々が心に留め続けるように」という願いが込められています。また、この名前はヘンリー王子の亡き母であるダイアナ元皇太子妃の慈善活動を追悼し、その精神を継承するという意味合いも持っています。

レソトの現状と活動の背景

南アフリカ共和国に囲まれた山がちな内陸国であるレソトは、国土の大部分が標高1600メートル以上の高地に位置し、厳しい自然環境にあります。長年にわたる耕作や家畜数の増加、不規則な降雨などが土壌浸食を引き起こし、深刻な環境問題となっています。近年は干ばつと豪雨が繰り返され、基幹作物であるトウモロコシの収穫量が激減するなど、食糧不足が慢性的な課題です。

さらに、レソトはHIV/AIDSの蔓延が極めて深刻であり、エイズ発症率は世界で3番目に高い水準です。14歳以下でHIVと共に生きる子供は約3万7千人にのぼり、国内には36万人もの孤児が存在します。全児童の約10パーセントが、様々な困難に直面し、非常に脆弱な状況に置かれています。

サンタバリーは、こうしたレソトが抱える複合的な課題、特に傷つきやすい立場にある子供や若者、そして彼らが暮らす地域社会を支援することを目的としています。子供たちが持つ潜在的な可能性を最大限に発揮できるよう、彼らを取り巻く環境やニーズに即した形で支援活動を展開しています。

主な活動プログラム

サンタバリーの慈善活動は、以下の五つの主要なプログラムを中心に展開されており、子供たちの健康、保護、教育の向上を目指しています。

1. マモハト・ネットワーク・アンド・キャンプ：HIV陽性の子供たちに対し、週にわたる教育キャンプを定期的に開催し、病気への理解促進と自己肯定感の向上を図ります。また、キャンプ卒業生向けのネットワーククラブでは、「専門的知識を持った患者」として地域啓発や互いのサポートを担う人材育成を行い、昼間の治療奉仕者は医療専門家と患者家族の橋渡し役を務め、抗レトロウイルス療法へのアクセスや治療継続を支援します。

2. 牧童教育プログラム：レソトには多くの牧童がおり、彼らに基本的な教育を提供します。数学や読み書きといった基礎学力に加え、牧畜技術の向上、HIV/AIDSに関する教育と意識向上を図ります。サンタバリーは、教材や食料の提供、校舎の修繕、教師への資金援助などを通じて、国内の牧童向け学校を支援しています。

3. 脆弱児童保護プログラム：地域主体の組織と連携し、身体に障害を持つ子供や孤児など、最も支援を必要とする子供たちに教育、保護、援助を提供します。提携組織に対して、資金援助や人材育成、運営計画のサポートを行い、彼らの活動を強化しています。

4. 就学児童用奨学金：経済的な理由で就学が困難な子供たちが、中等教育を修了できるよう奨学金を提供します。この奨学金は、授業料だけでなく、制服代、食費、学用品費といった、教育を受ける上で必要となる様々な費用を包括的に支援します。

5. レツェマ (Letsema)：レソト国内で脆弱児童支援に取り組む非政府組織、民間組織、地域団体などが横断的に連携するためのネットワークです。情報やノウハウ、成功事例の共有を促進し、参加団体間のコミュニケーションと計画立案を円滑にすることで、より効果的な支援活動を目指しています。

組織体制と沿革

サンタバリーは、主に資金調達を担う小さな事務所を英国に置いていますが、運営スタッフの多くはレソトを拠点とするバストゥ人であり、現場の実情に根差した活動を行っています。

団体設立初期の2008年には、多額の寄付金が集まったにも関わらず、レソトでの実際のプロジェクトへの支出が少ないといった財政運営に関する報道がありました。しかし、その後の運営改善により、2010年度の報告書では、集まった募金の大部分（72%）がレソトの子供たちへの直接的な支援に充てられたことが報告されています。

理事会はフィリップ・ネヴィル・グリーン氏が議長を務め、リンダ・チョーカー男爵夫人など、様々な分野の経験豊富なメンバーで構成されています。2025年3月には、2023年7月に就任したソフィー・チャンダウカ理事長との関係悪化を理由に、設立者であるヘンリー王子とセーイソ王子を含む複数の役員が辞任するという動きがありました。

サンタバリーは、レソトの困難な状況にある子供たちが希望を持ち、健やかに成長できる未来を築くために、活動を続けています。

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