サント・トラフィカンテ

サント・トラフィカンテ・ジュニア：フロリダを支配したマフィア・ボス

サント・トラフィカンテ・ジュニア(1914年11月15日-1987年3月17日)は、フロリダ州タンパを拠点に勢力を拡大した、アメリカを代表するマフィア・ボスのひとりです。彼の父、サント・トラフィカンテ・シニアの後を継ぎ、トラフィカンテ一家を率いました。シチリア島出身の父譲りの冷徹さと、綿密な戦略、そして広大な人脈によって、彼はフロリダの暗黒街を長年支配し続けました。

キューバでの成功と転落

1940～50年代、キューバがバティスタ政権下にあった頃、トラフィカンテはバハマでカジノ事業を展開し、巨万の富を築きます。マイヤー・ランスキーなどのマフィアの大物たちと繋がりを持ち、その勢力を拡大していきました。しかし、フィデル・カストロ率いる革命によってキューバ政権が崩壊すると、彼のカジノは閉鎖され、彼は投獄されます。その後、マフィアの弁護士フランク・ラガーノの助けによって釈放されましたが、ラガーノは後にマフィアとの関与が露見し、弁護士資格を剥奪されています。

カストロ暗殺未遂とCIAとの関係

トラフィカンテは、CIAと密かに手を組み、フィデル・カストロ暗殺を企てたとする説があります。サム・ジアンカーナ、カルロス・マルセロらと共に、カストロ暗殺計画に関わったとされています。カストロ政権下で失われたキューバでの莫大な利益を取り戻すため、カストロ暗殺を望んでいたとされています。計画は失敗に終わり、カストロ暗殺が成功していたら、トラフィカンテがキューバの暗黒街を牛耳る予定だったという証言もあります。また、カストロに捕らえられていた時期もあったとされ、釈放にはジャック・ルビーが関わっていたという証言も存在します。

巧みな策略と広大な人脈

トラフィカンテは、マフィアの中でも特に用心深い人物として知られていました。ニューオーリンズのカルロス・マルセロとの会合では、マルセロが安全だと保証したにもかかわらず、盗聴器の存在を警戒し、耳元でささやきながら会話を進めたという逸話が残っています。実際、その会議室にはFBIの盗聴器が仕掛けられていたそうです。

彼はニューヨークのボナンノ一家と良好な関係を保ちつつ、テキサス州、ニューオーリンズ、シカゴのマフィアファミリーとも強い繋がりを持っていました。こうした広大な人脈と、冷徹な戦略によって、トラフィカンテは長年に渡り、マフィアの世界で生き残ることができました。

ケネディ大統領暗殺未遂と予言

トラフィカンテは、かつてジョン・F・ケネディ大統領を支持していました。しかし、キューバ亡命者のホセ・アレマンの証言によると、1962年に「ケネディは1964年の大統領選で再選されない。ケネディは『ヤラレル』からだ」と予言していたそうです。アレマンは、この発言を下院暗殺調査会で証言しましたが、マフィアからの報復を恐れて、発言内容を曖昧にする発言も残しています。アレマン自身は、証言後に自殺しています。また、トラフィカンテは1976年にフロリダで殺害されたジョン・ロッセーリの死にも関与したという疑惑があります。

FBI捜査と晩年

1986年には、ボナンノ一家のメンバーがフロリダで経営していたナイトクラブの件で法廷で証言を求められています。このボナンノ一家には、FBIの秘密捜査官ジョゼフ・ピストーネ（ドニー・ブラスコ）も潜入しており、彼の捜査を描いた映画「フェイク」にもトラフィカンテは登場します。

晩年は心臓病を患い、1987年にテキサス州ヒューストンで死去しました。驚くべきことに、生涯一度もアメリカの刑務所には入っていませんでした。フロリダ州タンパ郊外のイボール・シティーのL'Unione Italiana Cemeteryに、両親と共に埋葬されています。

トラフィカンテ一家その後

トラフィカンテの死後、ラガーノが後を継ぎましたが、古参メンバーの死や、フロリダに進出した他のマフィアファミリーの台頭により、トラフィカンテ一家は衰退し、事実上消滅したとされています。

サント・トラフィカンテ・ジュニアの生涯は、アメリカマフィア史において重要な一章であり、彼の冷徹さと策略、そして広大な人脈は、現在でも語り継がれています。彼の残した謎は、現代においても多くの研究者を魅了し続けています。

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