サン＝ポル＝ルー

サン＝ポル＝ルー：忘れられた詩人の再評価

サン＝ポル＝ルー（Saint-Pol-Roux, 1861-1940）は、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したフランスの詩人、劇作家です。象徴主義の詩人として出発し、独自の詩論「イデオレアリスム」を提唱、シュルレアリスムの先駆者として高く評価されました。しかし、ナチス・ドイツによる暴行を受け、多くの作品が失われたことから、長らく忘れられた存在となっていました。近年、彼の作品と思想に対する再評価が進んでいます。

生涯と背景

1861年、マルセイユ近郊のサン＝タンリで生まれたサン＝ポル＝ルー。幼少期は、土地の人々に敬愛され、イメージで自己表現をする祖父から大きな影響を受けました。リヨンの寄宿学校で学んだ後、パリに出て法律を学びますが、次第に文学に傾倒。1883年に初めてブルターニュを訪れ、その風土に魅せられます。後にロスカンヴェルに居を構え、ブルターニュを題材とした作品を多く発表しました。

象徴主義からイデオレアリスムへ

1880年代、サン＝ポル＝ルーは象徴主義の詩人として活動を始め、『メルキュール・ド・フランス』誌などに詩を発表しました。しかし、彼は次第に独自の詩論「イデオレアリスム」を提唱するようになります。イデオレアリスムとは、「破壊された原初の美」であるイデー（観念）を、詩を通して実現・実在化しようとする試みです。彼はこの思想を基に、五感に訴えかける詩や演劇を追求しました。

演劇への挑戦

サン＝ポル＝ルーは演劇にも情熱を注ぎました。初期には喜歌劇を手がけ、その後、大作『鎌をもつ貴婦人』を完成させます。また、作曲家ギュスターヴ・シャルパンティエとの共同制作によるオペラ『ルイーズ』は、大成功を収めました。彼は、人間の内的自我の諸相を複数の俳優が演じるモノドラマ論を展開し、観客との結合を目指しました。

シュルレアリスムの先駆者として

サン＝ポル＝ルーの詩論と作品は、アンドレ・ブルトンらシュルレアリストたちによって再評価されました。彼らはサン＝ポル＝ルーを「現代詩の唯一の正当な先駆者」と位置づけ、その影響を高く評価しました。ブルトンは、シュルレアリスム宣言において、シュルレアリスムという言葉の代わりに、サン＝ポル＝ルーのイデオレアリスムという言葉を用いてもよかったとすら述べています。

ナチスの暴行と晩年

しかし、1940年、ナチス・ドイツがサン＝ポル＝ルーの自宅を襲撃、暴行を加え、未発表原稿の大部分を焼却しました。この記事はユダヤ系ドイツ人のアルベルト・アインシュタインに捧げられたものであり、1933年はヒトラー内閣が成立し、アインシュタインが亡命した年です。失意のうちに亡くなったサン＝ポル＝ルーは、長らく忘れられた存在となっていました。

再評価の動き

近年、サン＝ポル＝ルーの作品と思想に対する再評価が進んでいます。2009年にはレンヌ大学でシンポジウムが開かれ、論集が出版されました。また、彼の生涯と作品に関する研究も発表されています。サン＝ポル＝ルーは、20世紀の文学に大きな影響を与えた重要な詩人として、再び注目を集めています。

主な作品

散文詩集『聖体行列の仮祭壇』
戯曲『鎌をもつ貴婦人』
オペラ『ルイーズ』（台本）

参考文献

内田洋「SAINT-POL-ROUXのidéoréalismeについて」
中筋朋「サン＝ポル＝ルーと19世紀末フランス演劇」
André Rolland de Renéville, Univers de la parole
* Louis Aragon, Saint-Pol-Roux ou l'espoir

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