ザ・クリーナー 消された殺人

映画『ザ・クリーナー 消された殺人』

2007年にアメリカ合衆国で製作されたサスペンススリラー、『ザ・クリーナー 消された殺人』。原題は「Cleaner」です。本作は、かつて法を守る側の人間であった男が、現在は事件の痕跡を消し去る特殊清掃員として生きる中で、期せずして重大事件に巻き込まれていく物語です。

主人公は、サミュエル・L・ジャクソンが演じるトム・カトラー。彼は以前は警察官でしたが、今は家族を支えるために、犯罪現場や事故現場の清掃を専門に行う業者として働いています。彼の仕事は、凄惨な状況の後に残された血痕や証拠となりうるものを含め、現場を完全に元の状態に戻すこと。それは、時には事件そのものの存在を隠蔽することにもつながりかねない仕事です。

物語は、トムがいつものように依頼された現場の清掃を完璧に終えたところから動き出します。細部にわたり徹底的な清掃作業を終え、現場を後にしたトムでしたが、後日、カギを返し忘れたことに気づき、再びその家を訪れることになります。そこで彼は、信じられないような現実に直面します。

清掃を行った部屋に住む女性、アン・ノーカット（エヴァ・メンデス）は、その家で何が起こったのか、事件の事実を全く知らない様子だったのです。トムは咄嗟に、清掃する家を間違えたのだとアンに告げ、その場をやり過ごします。しかし、この予期せぬ出来事は、トムの心に大きな疑問を投げかけました。

自宅に戻りテレビをつけたトムは、ニュースで世間を騒がせている失踪事件について知ります。それは、著名な実業家であるジョン・ノーカットの行方不明事件でした。そして、テレビに映し出されたジョンの自宅が、まさにトムが清掃した家であり、先ほど出会ったアンがその妻であったことを悟るのです。

自分が清掃した現場が、実は著名な人物の失踪に関連する、ひょっとしたら殺人事件の現場であった可能性が高い。しかも、事件の痕跡は自らの手で消し去ってしまった。そして、被害者の妻と思われる女性はその事実を知らない。この異常な状況に、トムは元警察官としての正義感と、現在の特殊清掃員としての立場の板挟みとなり、苦悩します。

真相を確かめずにはいられなくなったトムは、かつての警察時代の相棒であるエディ・ロレンゾ（エド・ハリス）に連絡を取ります。現役刑事であるエディから情報を得ようとしますが、この行動が、トム自身を事件の渦中へと引きずり込むことになります。

トムが事件に関与しているのではないかと疑いの目を向けたのは、捜査を担当する刑事、ジム・バルガス（ルイス・ガスマン）でした。トムは、清掃業者としてではなく、事件の容疑者としてバルガス刑事にマークされることになり、自らの身の潔白を証明するために奔走することになります。

トムは、愛する娘ローズ（キキ・パーマー）を守るため、そして自身の平穏な生活を取り戻すため、事件の闇に隠された真実を暴こうと決意します。元警察官としての捜査能力と、特殊清掃員として現場の微細な痕跡から情報を読み取るスキルを駆使し、彼は独自の捜査を進めます。しかし、この捜査はやがて、彼自身の過去や現在の仕事、そして事件との間に思いもよらない繋がりがあることを明らかにしていくのでした。

本作の主要キャストには、主演のサミュエル・L・ジャクソンのほか、エド・ハリス、エヴァ・メンデス、ルイス・ガスマンといった実力派が揃っています。トムの娘ローズを演じるのはキキ・パーマー。父であるトムの唯一の理解者であり、彼が危険を冒す動機の一つとなります。また、トムが働く清掃会社の受付担当シェリー役でマギー・ローソン、同僚のミゲル役でホセ・パブロ・カンティージョ、検視医アーロ・グランジ役でロバート・フォスターが出演しています。

日本語吹替版では、大塚明夫がトムを、菅生隆之がエディを、永吉ユカがアンを、中村浩太郎がジム・バルガスをそれぞれ担当しており、オリジナル版とはまた異なる味わいを提供しています。

『ザ・クリーナー 消された殺人』は、犯罪現場の清掃という異色の設定を軸に、主人公の倫理的葛藤や、過去との決着を描く重厚なサスペンスです。事件の複雑な真相と、追われる立場の主人公がどう立ち向かうのか、最後まで目が離せない作品と言えるでしょう。

もう一度検索