ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル (映画)

『ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル』（原題：The Great Rock 'n' Roll Swindle）は、1980年に公開された、イギリスの伝説的なパンク・ロックバンド、セックス・ピストルズに関するドキュメンタリー映画です。

一般的にはバンドの歩みを追うドキュメンタリーとして知られていますが、本作は少々特殊な視点から構成されています。物語の中心となるのは、ピストルズの仕掛け人でありマネージャーを務めたマルコム・マクラーレン。彼は自身の口から、いかにしてロックンロールという産業の頂点を「騙し取った」のかを、まるで悪知恵を誇るかのように語り続けます。このマルコムの独特な語り口と、スクリーン上で放たれる強烈な個性は、観る者に強い印象を与えます。

映画は、ピストルズの貴重な未公開ライブ映像やインタビュー、さらには斬新なアニメーションを巧みに織り交ぜながら進行します。その実験的な構成と、マルコムという稀代のトリックスターを中心とした物語は、他のロックミュージシャンのドキュメンタリーとは一線を画す、異彩を放つ作品となりました。

作中では、マルコム独自のマネジメント哲学が惜しげもなく披露されます。そこには、かつて彼が傾倒していた思想である状況主義の影響が色濃く反映されています。例えば、

「混乱こそが収益を生む」
「音楽の演奏能力は重要ではない。むしろ、できない方が好都合だ」
「音楽性よりも、世代間の明確な断絶を生み出すことが肝要である」
「バンドを有名にするためには、ありとあらゆる競争を避けなければならない」
「音楽に一切興味を持たない弁護士を雇うべきだ」
ボーカルのジョニー・ロットンを「最終的には敵国（アメリカ）に魂を売った裏切り者」と評する

といった、常識にとらわれない、挑発的な言葉が語られます。これらの言葉は、彼がピストルズを単なる音楽バンドとしてではなく、社会や既存の価値観に対する「スウィンドル（詐欺、いかさま）」として捉えていたことを鮮明に物語っています。

特に象徴的なシーンとして、タイトルナンバー「ザ・グレート・ロックンロール・スウィンドル」の演奏場面が挙げられます。「誰でもピストルズになれる」という挑発的なコンセプトのもと、街中の少年たちが代わる代わるボーカルを担当させられます。これは、ピストルズという存在がいかに操作され、虚構の上に成り立っていたのかを強烈に印象づける演出です。

しかし、この映画で描かれた内容は、バンドメンバー、特にジョニー・ロットンからは「全くの事実無根のでたらめだ」として強い反発を招きました。彼らは、映画がマルコムの勝手な都合の良い解釈で構成されており、実際のバンドの姿を歪めていると感じたのです。この批判を受けて、2001年には本作と同じくジュリアン・テンプルが監督を務め、旧メンバーが全面的に協力した新たなドキュメンタリー『No Future』（別邦題『セックス・ピストルズ/勝手にしやがれ!!』など）が製作されました。多くの点で、『ノー・フューチャー』の方が、よりバンドのリアルな歴史を描いた作品として認識されています。

それでも、『ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル』は、マルコム・マクラーレンという特異な人物を、単なるマネージャーではなく、「稀代の詐欺師」「一流のトリックスター」として世に知らしめる決定的な作品となりました。映画公開と同時期に、同名のサウンドトラックアルバムもリリースされ、こちらも大きな話題を呼びました。

もう一度検索