ザ・ダウンワード・スパイラル

ナイン・インチ・ネイルズ『ザ・ダウンワード・スパイラル』

『ザ・ダウンワード・スパイラル』は、ナイン・インチ・ネイルズが1994年3月に発表したセカンド・アルバムであり、バンドの代表作として広く認知されています。アメリカのビルボード誌では初登場2位を記録し、その衝撃的な内容と音楽性で、現在に至るまで多くのファンを魅了し続けています。ナッシング・レコードからのリリース、インタースコープ・レコードによる配給という形で世に送り出されました。『ローリング・ストーン誌が選ぶオールタイム・グレイテスト・アルバム500』では122位にランクインしており、音楽史においても重要な作品として評価されています。

収録曲

オリジナルであるアメリカ盤の収録曲は以下の通りです。ヨーロッパ盤も同様の構成ですが、日本盤にはジョイ・ディヴィジョンのカバーである「Dead Souls」が10曲目に特別収録されています。

1. Mr. Self Destruct
2. Piggy
3. Heresy
4. March Of The Pigs
5. Closer
6. Ruiner
7. The Becoming
8. I Do Not Want This
9. Big Man With A Gun
10. A Warm Place
11. Eraser
12. Reptile
13. The Downward Spiral
14. Hurt

特徴

本作は、当時のトレント・レズナーの精神状態と、1990年代のアメリカ社会を覆っていた厭世的な雰囲気が色濃く反映された作品です。自己嫌悪や疎外感といったテーマが、アルバム全体を支配しています。特に、1曲目のタイトル「Mr. Self Destruct」や、「Eraser」の歌詞からは、レズナーの内面の葛藤が痛いほど伝わってきます。しかし、一方で「Closer」では他者とのコミュニケーションを求める願望も垣間見えるなど、矛盾や混沌が複雑に絡み合っているのが特徴です。こうした自己の内なる混乱が閉塞感を生み出し、アルバム全体を陰鬱な雰囲気に包み込んでいます。

ピンク・フロイドが1979年に発表した『ザ・ウォール』も同様のテーマを扱っており、レズナー自身も『ザ・ウォール』からインスピレーションを受けたと公言しています。

制作にまつわるエピソード

レコーディングは、「LE PIG Studio」と名付けられた家で行われました。しかし、この家は、1969年にチャールズ・マンソンによって引き起こされた「シャロン・テート殺人事件」の現場となった場所でした。レズナーはそれを知らずに借りたそうですが、レコーディング終了後には手放しています。その後、家は取り壊されましたが、玄関のドアだけはレズナーが持ち帰り、ニューオーリンズに設立した新しいスタジオ「Nothing Studio」の入り口に取り付けられました。殺人事件当時、このドアにはマンソンの信者たちがシャロン・テートの血で書いた「PIG」という文字が残されていたと言われています。

本作からは、「March Of The Pigs」と「Closer」がシングルカットされ、それぞれビデオクリップも制作されました。「Closer」のビデオは、十字架に磔にされた猿が登場するシーンが物議を醸し、テレビ放送ではカットされる事態となりました。その後、「Eraser」と「Hurt」のライブ映像がビデオクリップとして公開されています。

リリース後、ツアーの一環として1994年に開催された『ウッドストック1994』に出演。メンバー全員が泥まみれになりながらのパフォーマンスは大きな話題を呼びました。その模様を収録した海賊版ビデオも多数出回りましたが、公式作品としては、「The Only time」と「Sanctified」のパフォーマンスがビデオ作品集『Closure』に収録されたのみとなっています。

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