ザ・ハイプ

ザ・ハイプ (The Hype)

「ザ・ハイプ」は、革新的なアーティストとして知られるデヴィッド・ボウイが、1970年に結成したバンドです。このグループは、後に彼のキャリアにおいて最も象徴的なバックバンドの一つとなる「The Spiders from Mars」の重要な前身として位置づけられています。1970年代のブリティッシュロックシーンにおけるグラムロックという新たなムーヴメントの形成において、このバンドが果たした役割は決して小さくありません。

バンド結成の背景には、ボウイが1969年のヒット曲「スペイス・オディティ」を含むアルバム『スペイス・オディティ』発表後、より固定されたバックバンドを求めるようになったことがあります。このニーズに応える形で、まず「スペイス・オディティ」のレコーディングに参加していたドラマーのジョン・ケンブリッジが加わりました。続いてベーシストとしてトニー・ヴィスコンティが参加し、ケンブリッジの推薦によってギタリストのミック・ロンソンがバンドに加わることになりました。ロンソンにとって、これがボウイとの長く実りあるコラボレーションの始まりとなります。

バンドは活動初期、定まった名称を持たず、いくつかの異なる名義でライブを行いました。最初のステージは1970年2月22日、ロンドンのラウンドハウスで行われ、「The David Bowie Band」という肩書きで、ノエル・レディングが率いるファット・マットレスのサポートを務めました。このライブは、ギタリストのミック・ロンソンにとってデヴィッド・ボウイとの公式な初共演の場でもありました。しかし、彼らの初めてのステージは観客にあまり受け入れられず、演奏を終えてステージを後にする際には、聴衆からの嘲笑や野次が向けられるという厳しい洗礼を受けたといいます。

翌日の1970年2月23日には、ロンドンのストレッタムアームズで2度目のギグが行われ、この時は「Harry the Butcher」という名義で演奏しました。さらに3回目のギグでは、「David Bowie's New Electric Band」として告知され、そのサブタイトルには「So New They Haven't Got A Name Yet（まだ名前が決まっていないほど新しい）」という言葉が添えられていました。

最終的にバンド名が「ザ・ハイプ」に決定したエピソードも伝えられています。ある時、バンド名を巡る議論の中で、偶然飛び出した「The whole thing is just one big hype（すべての物事はまさしく1つの巨大なhypeだ）」という発言が、彼らの活動にぴったりと当てはまる名前として採用されることになったのです。

彼らのラジオでのオンエアデビューは、1970年2月5日にBBC Radio 1で放送されたジョン・ピールの番組『The Sunday Show』でのパフォーマンスでした。

初期の主要メンバーとそのステージネームは以下の通りです。

デヴィッド・ボウイ (Space Star/Rainbowman) - ボーカル、12弦ギター
ミック・ロンソン (Gangsterman) - レスポールギター
トニー・ヴィスコンティ (Hypeman) - ベースギター、ボーカル
ジョン・ケンブリッジ (Cowboyman) - ドラムス (1970年4月まで)

ドラマーは途中で交代があり、ジョン・ケンブリッジは1970年4月まで務め、その後ミック 'Woody' ウッドマンジーがドラマーとして参加しました。また、1970年11月からはベニー・マーシャルがボーカルとハーモニカで加わっています。

「ザ・ハイプ」としての活動期間は比較的短かったものの、デヴィッド・ボウイが自身の音楽的方向性を模索し、後のSpiders from Marsへと繋がる強力なバックバンドを構築していく上で、非常に重要な過渡期を形成したバンドであると言えるでしょう。特にミック・ロンソンとの出会いと共演は、その後のボウイのサウンドとイメージに決定的な影響を与えることになります。短い活動期間ながらも、このバンドは1970年代初頭のブリティッシュロックシーン、そしてグラムロックの夜明けにおいて、その存在を示したのです。

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