ザ・パワー・トゥ・ビリーヴ

ザ・パワー・トゥ・ビリーヴ

『ザ・パワー・トゥ・ビリーヴ』（The Power To Believe）は、プログレッシブ・ロック界の巨匠、キング・クリムゾンが2003年に発表したスタジオ・アルバムです。この作品は特に、日本で世界に先駆けて発売されたことでも注目を集めました。

制作背景

本作は、前作にあたる2000年リリースのオリジナル・アルバム『ザ・コンストラクション・オブ・ライト』と同じメンバー構成で制作されました。当時のラインナップは、ギタリストでありバンドの中心人物であるロバート・フリップ、同じくギターとボーカルを担当するエイドリアン・ブリュー、ウォー・ギターのトレイ・ガン、そしてドラムスのパット・マステロットという四人編成でした。

このアルバムの制作にあたり、ロバート・フリップは「Nuovo Metal」という独自のコンセプトを掲げました。これは「新しいメタル」を意味する造語であり、当時の仮タイトルとしても使用されていました。このコンセプトは、キング・クリムゾンがこの時期に追求した音楽的な方向性を端的に示しています。

楽曲の発展と先行リリース

本作に収録されている楽曲の一部は、アルバムの完成に先立つ2001年のライブ・ツアーで既に演奏され、ファンに披露されていました。特に「レヴェル5」や「デンジャラス・カーヴス」といった楽曲は、ライブでの演奏を経て磨き上げられていきました。これらの楽曲のライブ・ヴァージョンは、2001年にリリースされたミニ・アルバム『LEVEL FIVE』に収められています。

また、アルバムのタイトル・トラックの一つである「ザ・パワー・トゥ・ビリーヴ2」は、『LEVEL FIVE』に収録されていた「Virtuous Circle」という楽曲を発展させる形で制作されました。このように、ライブでの試行錯誤や先行するEPでの発表が、本作の楽曲群を形成する上で重要な役割を果たしました。

レコーディングは主に、ギタリスト兼ボーカリストであるエイドリアン・ブリューの自宅にあるスタジオで行われました。完成した楽曲の一部は、アルバムに先行して2002年10月にミニ・アルバム『しょうがない〜ハッピー・ウィズ・ホワット・ユー・ハフ・トゥ・ビー・ハッピー・ウィズ』として発表されています。この先行ミニ・アルバムには、本作にも収録された「アイズ・ワイド・オープン」や、ミニ・アルバムのタイトルにもなっている「ハッピー・ウィズ・ホワット・ユー・ハフ・トゥ・ビー・ハッピー・ウィズ」の異なるバージョンも収録されており、アルバムへの期待感を高めました。

収録曲

本作には以下の11曲が収録されています。全ての楽曲の作曲はキング・クリムゾン名義で行われていますが、歌入りの楽曲の作詞はエイドリアン・ブリューが担当しています。

1. ザ・パワー・トゥ・ビリーヴ1：アカペラ (The Power To Believe I:A Cappella)
2. レヴェル5 (Level Five)
3. アイズ・ワイド・オープン (Eyes Wide Open)
4. エレクトリック (EleKtriK)
5. ファクツ・オブ・ライフ：イントロ (Facts Of Life:Intro)
6. ファクツ・オブ・ライフ (Facts Of Life)
7. ザ・パワー・トゥ・ビリーヴ2 (The Power To Believe II)
8. デンジャラス・カーヴス (Dangerous Curves)
9. ハッピー・ウィズ・ホワット・ユー・ハフ・トゥ・ビー・ハッピー・ウィズ (Happy With What You Have To Be Happy With)
10. ザ・パワー・トゥ・ビリーヴ3 (The Power To Believe III)
11. ザ・パワー・トゥ・ビリーヴ4：コーダ (The Power To Believe IV:Coda)

参加ミュージシャン

本作の録音に参加したメンバーは以下の通りです。

ロバート・フリップ: ギター
エイドリアン・ブリュー: ギター、ボーカル
トレイ・ガン: ウォー・ギター
パット・マステロット: ドラムス

この時期のキング・クリムゾンは、ヘヴィでテクニカルなリフや、複雑なリズム構造を取り入れたアプローチを特徴としており、「Nuovo Metal」というコンセプトは、そうした彼らの音楽性の進化を示すキーワードであったと言えるでしょう。先行するミニ・アルバム群で提示された方向性を集約し、発展させた本作は、2000年代初頭におけるキング・クリムゾンの重要な到達点の一つとなりました。

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