シドニー・アルトマン

シドニー・アルトマン

シドニー・アルトマン（Sidney Altman, 1939年5月7日 - 2022年4月5日）は、カナダに生まれ、主にアメリカ合衆国で活躍した分子生物学者です。イェール大学の分子生物学、細胞生物学、進化生物学、化学の各分野で教授を務めました。彼の最も重要な業績は、RNA分子が酵素のように触媒として機能する能力を持つことを発見したことです。この画期的な発見は、当時の生物学における「酵素はタンパク質のみである」という定説を覆し、生命の起源や進化に関する新たな視点をもたらしました。この功績により、彼は1989年にトーマス・チェックとともにノーベル化学賞を共同受賞しました。

生い立ちと教育

アルトマンは1939年、カナダのケベック州モントリオールで誕生しました。高等教育はアメリカで受け、1960年にマサチューセッツ工科大学（MIT）を卒業し、物理学の学士号を取得しました。その後、コロンビア大学で物理学の大学院生として約1年半を過ごしましたが、研究分野を生物学へと移しました。最終的に、1967年にコロラマ大学で生物物理学の博士号を取得し、研究者としてのキャリアを本格的にスタートさせました。

ノーベル賞に繋がる発見

シドニー・アルトマンのノーベル賞受賞理由は、特にリボヌクレアーゼPというリボタンパク質複合体の酵素機能に関する発見です。リボヌクレアーゼPは、主にtRNA（転移RNA）の成熟過程に関わる酵素であり、一つのRNA分子と、生物種によって数が異なる（真正細菌では1つ、真核生物や古細菌では複数）タンパク質サブユニットから構成されています。当初、この複合体の触媒活性は、その構成要素であるタンパク質サブユニットに由来すると広く考えられていました。

しかし、アルトマンとその研究室は、試験管内でのリボヌクレアーゼPの再構成実験を行う過程で、驚くべき事実を発見しました。それは、タンパク質サブユニットを取り除いたRNA分子単独でも、リボヌクレアーゼPとしての触媒活性を示すということでした。この発見は、RNAが遺伝情報の伝達だけでなく、生命活動における触媒としても機能しうることを証明するものであり、「リボザイム」という新たな概念を生み出しました。この業績が認められ、彼はRNAスプライシングの触媒作用を発見したトーマス・チェックと共に、1989年のノーベル化学賞を授与されました。

彼のその後の研究により、真正細菌のリボヌクレアーゼPでは、触媒作用を発揮するためにタンパク質サブユニットが不可欠であることが明らかになっています。

その他の受賞と活動

ノーベル賞以外にも、シドニー・アルトマンは数々の栄誉を受けています。1988年にはローゼンスティール賞を受賞し、2016年にはロシア科学アカデミーからロモノーソフ金メダルを授与されました。また、生前は「米国のための科学者と技術者」のアドバイザリー委員を務めるなど、科学界への貢献だけでなく、政策提言においても役割を果たしました。

私生活

アルトマンは、哲学者ステファン・ケーナーの娘であり、作家や科学誌の編集者としても活動したアン・ケーナーと結婚しました。アン・ケーナーの著書には、ステファン・ショーベによって翻訳された『Easter Island and Its Mysteries』（東アイルランドとその謎）などがあり、インターネット上で公開されています。息子であるダニエル・アルトマンは、インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙で国際経済担当特派員を務め、アメリカ経済やグローバル経済に関する著作（例: 『Neoconomy』、『Connected - 24 Hours in the Global Economy』）を複数出版しています。娘のリアはフリーランスの助産婦として活動しており、夫と二人の娘とともにグラスゴーに暮らしています。

死去

シドニー・アルトマンは、長い闘病生活の後に、2022年4月5日に82歳でこの世を去りました。彼の死は、分子生物学の分野に大きな損失をもたらしましたが、RNA研究における彼の先駆的な仕事は、今後も科学の発展に影響を与え続けるでしょう。

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