シャフリル

シャフリル：インドネシア独立の礎を築いた初代首相

シャフリル（Sutan Sjahrir, 1909年3月5日 - 1966年4月9日）は、インドネシアの植民地時代から独立初期にかけて活躍した民族主義運動家であり、政治家です。初代首相としてインドネシアの舵取りを行い、社会主義者として民主主義的な国家を目指しましたが、その道のりは決して平坦ではありませんでした。

独立運動家としての目覚め

西スマトラのパダン・パンジャンで生まれたシャフリルは、ミナンカバウ族の出身です。父親は植民地政府の検察官という比較的恵まれた環境に育ちました。オランダ語教育を受け、アムステルダム大学、ライデン大学に留学。そこでインドネシア協会に参加し、ヨーロッパの左派知識人との交流を通じて、民族意識を高めていきました。

1931年に帰国すると、インドネシア国民教育協会の議長に就任し、ハッタとともに民族主義の啓蒙活動に尽力します。しかし、1934年にはハッタとともに逮捕され、ボーフェン・ディグールやバンダネイラ島へ流刑となります。この流刑中にオランダ人女性と結婚しましたが、後に離婚しています。

日本軍政下での抵抗

太平洋戦争が勃発し、日本軍がインドネシアに進駐すると、シャフリルは釈放されます。スカルノやハッタが日本軍政に協力する道を選んだのに対し、シャフリルは一貫して非協力の姿勢を貫きました。地下活動を指導していたため、当局から反日組織との関係を疑われましたが、ハッタらの尽力により逮捕を免れています。この時期、ハッタの勧めで独立養成塾で講師を務め、人材育成にも貢献しました。

独立、そして初代首相へ

終戦直後の1945年8月17日、スカルノとハッタがインドネシアの独立を宣言。シャフリルは初代首相に就任し、内政・外交の重責を担います。人民社会党を組織し、社会党と合併。複数政党制による西欧型民主主義体制の確立を目指し、親欧米協調路線を推進しました。

しかし、オランダとの交渉による独立達成を目指す彼の現実主義的な路線は、武力による独立を求める急進的な青年層の反発を招き、支持を失います。その後は政府顧問として諸国を遊説し、インドネシア独立への支持を訴えました。

社会主義者としての苦悩

ハッタ内閣を支持したシャフリルは、インドネシア社会党を結成し、党首として社会主義・民主主義の確立を目指しました。しかし、1955年の総選挙でPSIは惨敗。1958年のスマトラ反乱にPSI関係者が参加したことで、活動停止処分を受けます。

1962年、政権転覆の謀議を疑われ、スカルノ政権によって逮捕。拘留中に病を発症し、治療のためスイスへ亡命。1966年、チューリッヒで客死しました。その遺体は、後にインドネシアへ搬送され、英雄墓地に埋葬されました。

シャフリルの生涯は、インドネシア独立という великий великий великий偉業の裏で、政治的な苦悩と葛藤に満ちたものでした。彼の理想とした社会主義的な民主主義国家は実現しませんでしたが、その思想と行動は、今もなおインドネシアの政治に影響を与え続けています。

参考文献

Kahin,George McT.,Nationalism and Revolution in Indonesia, Ithaca, Cornell University Press, 1952
ロシハン・アンワル編（後藤乾一編・首藤もと子・小林寧子訳）『シャフリル追想-「悲劇」の初代首相を語る-』、勁草書房、1990年（原著1980年）
Legge,John,Intellectuals and Nationalism in Indonesia: The Following Recruited by Sutan Sjahrir, Ithaca, Cornell Modern Indonesia Project, 1988
Mrazek,Rudolf,Sjahrir : Politics And Exile In Indonesia,Southeast Asia Program, Cornell University, Ithaca, New York, 1994
* 首藤もと子『インドネシア-ナショナリズム変容の政治過程』、勁草書房、1993年

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