シャマール

シャマールとは

ペルシャ湾岸地方、特にイラク、サウジアラビア、カタールなどで発生する、砂ぼこりを巻き上げる強い風をシャマール（アラビア語: شمال）と呼びます。シャマルとも表記されます。この風は乾燥しており、主に北西から吹きます。日中に最も勢いが強まる特性がありますが、夜間には弱まる傾向があります。年間を通して数回発生し、夏季に多く見られますが、冬季に発生する事例も存在します。特にイラクでは、シャマールに伴う大規模な砂嵐が社会活動に深刻な影響を与えることがあり、これらの砂塵はヨルダンやシリアから運ばれてくると考えられています。

発生メカニズムと気圧配置

シャマールは、主に乾燥した北西の風として知られ、地域によって風向は変化します。その発生は、上空のジェット気流の変動による大気の不安定化と地上の気圧配置に関連します。一般的に、上空で寒帯ジェット気流と亜熱帯ジェット気流が接近して気圧の谷ができ、同時に地上ではイラク付近の高気圧とイエメン付近の低気圧により風の流れが生まれます。この際に発生する乾燥した寒冷前線付近の強風が砂塵を巻き上げシャマールとなります。イラクでは年間20〜50日砂嵐が発生するとされています。
気圧配置は季節で異なり、夏季はトルコ山岳地帯近くを通過する強い寒冷前線を伴う低気圧が要因となることが多く、気温は42℃以上と非常に高くなります。冬季は、寒冷前線通過後にアラビア半島に高気圧が張り出し、ペルシャ湾東部に低気圧が残るパターンが典型的で、ペルシャ湾岸で強い北寄りの風が数日続きます。この時期は気温が大きく下がり、イランでは雪混じりの砂塵が見られることもあります。特にペルシャ湾東部の島々では冬季に頻繁に発生し、数日続く強い嵐になることもあります。

季節ごとの特徴と名称

特に夏季のシャマールには、時期によって異なる呼び名や特徴があります。

アル=ファハル (Al-Haffar) または ドリラー (driller): 5月下旬に到来するその年最初の強いシャマールを指し、砂丘に窪地を作るほど強力です。
ソラヤ (Thorayya): 6月初めに吹く2度目のシャマールで、船を沈めるほどの威力を持つと恐れられていました。
* アル=ダバラン (Al-Dabaran): 「後に続くもの」という意味で、6月末頃のシャマールを指します。この時期のシャマールが最も大きな被害をもたらすとされ、微細な砂塵が入り込むため厳重な対策が必要です。

社会への影響と被害

シャマールは通常、3日から5日間程度継続します。巻き上げられた砂の層は数百メートルから数千メートルの高さに達し、航空交通や陸上交通に深刻な影響を与えます。また、水辺にも砂塵が降り注ぎ、漁業、釣り、海上交通も困難になります。砂塵を含んだ空気により、西南アジアの国際空港において強い下降気流が観測された事例もあります。さらに、砂が車体に吹きつけることで、車の塗装が引っ掻いたように剥がれる被害も報告されています。

主な発生事例

近年、シャマールの顕著な事例が発生しています。例えば、2005年8月8日にはバグダードで大規模なシャマールが発生し、街の機能が麻痺しました。呼吸困難などを訴える患者が1,000人以上病院に殺到するなど、大きな混乱が生じました。

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