シュローヴタイド・フットボール

シュローヴタイド・フットボール：伝統と情熱が交錯する祭り

シュローヴタイド・フットボールは、イギリス・ダービーシャー州アッシュボーンで、告解の火曜日と灰の水曜日の2日間にかけて開催される伝統的なフットボールの祭りです。その起源は12世紀に遡るとも言われ、フットボールの原型とも考えられています。地元では「Royal Shrovetide Football」とも呼ばれ、地域住民にとって非常に重要なイベントです。

歴史：古代から続く熱狂

シュローヴタイド・フットボールの正確な起源は、記録の消失により不明な点が多いものの、少なくとも1667年頃から行われてきたとされています。一説には、処刑された者の頭部を群衆に投げ込んだことが始まりとも言われていますが、敵への侮辱を示す球技が変化した可能性も指摘されています。

ダービーシャーにおけるフットボールに関する初期の記録として、1683年にチャールズ・コットンが著した詩「Burlesque upon the Great Frost」があります。また、ダービーで行われていた2つの街の間でのフットボールが、「ローカルダービー」の語源の一つになったとも言われています。

近年では、ナント大学のローラン・フルニエによって、シュローヴタイド・フットボールとフランス・ピカルディ地方の伝統的な球技「ラ・スール」との関連性が指摘されています。両者の紋章に共通する意匠が見られることから、文化的交流があった可能性が示唆されています。

概説：街全体がフィールド

アッシュボーンの街を二分するヘンモア川を境に、「Up'Ards（アッパーズ）」と「Down'Ards（ダウナーズ）」の2つのチームに分かれて戦います。アッパーズは川上側、ダウナーズは川下側をそれぞれのゴールとし、ボールを運びます。

特筆すべきはその自由度の高さです。ボールの移動方法に制限はほとんどなく、手で運ぶ、蹴る、隠すなど、あらゆる手段が許されます。アッシュボーンの街全体がフィールドとなり、教会や墓地を除けば、個人の住宅や商店に立ち入ることも可能です。

試合は2日間とも午後2時に開始され、夜10時に終了します。どちらのチームもゴールを決められなかった場合は引き分けとなります。ゴールを決めた者には、記念のボールが贈られ、街の英雄として称えられます。

参加者と戦術：街を挙げての一大イベント

シュローヴタイド・フットボールには、アッシュボーン出身者を中心に約7000人もの人々が参加します。主力選手は普段、配管工や建設作業員などとして働いており、この祭りのために一年を通してトレーニングを積んでいます。

アッパーズは、大人数でボールを囲むスクラム（地元では「hug」と呼ばれる）を形成し、そのままゴールを目指す戦術を得意とします。一方、ダウナーズは、スクラムからボールが飛び出した瞬間（「brake」と呼ばれる）に川へ運び込み、流れを利用してゴールを目指します。

ルールは「殺さない、ボールを隠さない、教会の敷地に入らない」程度と言われていますが、実際には奇策も用いられます。過去には、妊婦を装ってボールを運んだり、買い物客に扮してボールを隠したりする作戦が試みられました。

怪我と保険：祭りへの理解

激しいプレーが繰り広げられるため、怪我はつきものです。骨折などの怪我人が出ることも珍しくありません。参加者同士が殴り合いになることもありますが、多くの場合、経験豊富なプレーヤーが仲裁に入り、事態は収束します。また、プレー中に家屋や商店が損壊することもありますが、専用の保険が適用されるため、参加者は安心してプレーに集中できます。地域住民もこの祭りに理解を示し、街の活性化に貢献していると考えています。

若者の参加：大人への通過儀礼

アッシュボーンの男子にとって、シュローヴタイド・フットボールへの参加は大人への仲間入りを意味します。親は子供の成長を見極め、参加を許可する年齢を判断します。幼い子供は、スクラムから離れた場所でボールを受け取り、走る役割を担うなど、体力に応じた役割分担がなされます。

シュローヴタイド・フットボールは、アッシュボーンの街を挙げて行われる一大イベントです。この祭りの期間中には、多くの観光客や取材陣が訪れ、街は大いに賑わいます。シュローヴタイド・フットボールは、単なるスポーツイベントではなく、地域の歴史と文化を継承する、かけがえのない祭りなのです。

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