シンガポール州

シンガポール州：マレーシア連邦の一員としての短い歴史

シンガポールは、1963年から1965年の間、マレーシア連邦の一州「シンガポール州」として存在しました。この期間は、シンガポールが独立国家となるための重要な転換期であり、複雑な政治的、経済的な対立と人種間の緊張が交錯しました。

マレーシア連邦への合併

1963年9月16日、マラヤ連邦、旧イギリス植民地の北ボルネオ、サラワク、そしてシンガポールが合併し、マレーシア連邦が成立しました。この合併は、1819年にトーマス・ラッフルズが近代シンガポールを設立して以来、144年間続いたイギリスの支配が終わった瞬間でもありました。しかし、合併当初からシンガポールと連邦政府の間には、深い不信感とイデオロギーの違いが存在しました。

合併の背景

シンガポールの政治家たちは、1955年のデイヴィッド・マーシャル以降、マレーシアとの合併を何度も打診しましたが、その度に拒否されていました。マレーシアのトゥンク・アブドゥル・ラーマン首相は、連邦内の人種バランスを懸念し、中国系住民が多いシンガポールが加わることで、マレー人の政治的優位性が失われることを危惧していました。しかし、独立したシンガポールがマレーシアに敵対的な政府を樹立することも懸念され、国際的な緊張が高まる中で、トゥンクは合併へと舵を切ります。

1961年5月27日、トゥンクはマラヤ、シンガポール、ボルネオ間の緊密な連携を提唱し、完全な政治的統一を呼びかけました。この合併には、領土、資源、人口の面での利点があり、ボルネオの先住民族と半島のマレー人を合わせることで、シンガポール系中国人の影響力を相対的に抑えることができると考えられました。

合併協定と特例

合併に際して、シンガポールには以下のような特例が認められました。

教育、労働における自治権の維持。
国防、外交、国内安全保障は連邦政府の管轄下。
連邦議会におけるシンガポールの議席数は15に削減。
総収入の40％を連邦政府に納める。
ボルネオへの融資。
共通市場化は12年かけて実施。
シンガポール国民は、シンガポール国内でのみ投票可能なマレーシア国民となる。

合併後の対立

合併後、シンガポールとマレーシア連邦政府の間では、経済、政治、人種政策を巡る対立が激化しました。

経済対立

シンガポールは、共通市場化の見返りとして、連邦政府に収入の40％を拠出することで合意していましたが、マレーシア側は拠出金の引き上げを要求。一方、シンガポールは、マレーシアがシンガポール製品に関税を課していると非難し、両者の関係は悪化しました。融資についても対立し、世界銀行の仲裁を求める事態となりました。

政治対立

マレーシア連邦政府は、マレー人優遇政策を重視していましたが、シンガポールは人種平等を主張し、両者の対立は深まりました。また、シンガポールの経済的な優位性がクアラルンプールから政治的権力を奪う可能性も懸念されました。

人種間の緊張

合併後、人種間の緊張は劇的に高まりました。マレーシア政府は、多くの中国系移民に市民権を与えた一方で、マレー人の特権を保障する政策を進め、これがシンガポール側の反発を招きました。シンガポールでは、連邦政府がPAPを批判することで、マレー系住民が扇動される動きも見られました。その結果、1964年には大規模な人種暴動が発生し、多くの死傷者が出ました。

連邦からの追放

1965年8月7日、マレーシアのトゥンク・アブドゥル・ラーマン首相は、シンガポールを連邦から追放することを決定しました。シンガポール側は最後まで連邦に留まろうと交渉を続けましたが、8月9日、シンガポール議員を欠席させた状態で、国会は追放を可決。これにより、シンガポールは独立国家としての道を歩むことになりました。リー・クアンユーは、この決定を「苦渋のとき」と表現し、涙ながらにシンガポールの独立を宣言しました。

近年機密解除された文書によると、シンガポール側は、1964年7月の時点で連邦政府との間で、シンガポールを脱退させるための交渉を始めていたことが明らかになっています。これにより、シンガポールは、独立による経済的利益を享受しつつ、マレーシアを巻き込む地域紛争の影響を免れることができると考えられました。

独立後のシンガポール

1965年12月の憲法改正によって、シンガポール共和国が正式に誕生し、ユソフ・ビン・イサークが初代大統領に就任しました。通貨は1967年にシンガポール・ドルが導入されるまで、マラヤ及びイギリス領ボルネオ・ドルが使われました。シンガポールはその後、経済発展を遂げ、東南アジアにおける重要な経済拠点となりました。

まとめ

シンガポール州としての期間は短かったものの、その後のシンガポールの歴史を語る上で重要な出来事でした。合併と分離という経験が、シンガポールの独立国家としてのアイデンティティを形成する上で大きな役割を果たしました。

参考文献

“Merger with Malaysia”. Singapore Infopedia. National Library Board.
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Lee, Kuan Yew (19 November 1961). “Transcript of Recorded Press Conference by the Prime Minister, Mr. Lee Kuan Yew, Broadcast over Radio Singapore at 7.10 p.m. on Sunday, November 19, 1961 [Singapore Government Press Statement MC. No. 74/61/TTS]”. Government of Singapore.
Lim, Siew Yea. “Communalism and Communism at Singaporean Independence”. Contemporary Postcolonial and Postimperial Literature in English.
Mohamed Noordin Sopiee (2005). From Malayan Union to Singapore Separation: Political Unification in the Malaysia Region, 1945–65 (2nd ed.). Kuala Lumpur: University of Malaya Press.

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