シングル・ガール

太田裕美「シングル・ガール」

1970年代を代表するシンガーソングライターの一人、太田裕美が1979年7月1日に通算13枚目のシングルとして発表した「シングル・ガール」は、彼女の音楽活動において、新たな地平を切り拓いた記念碑的な楽曲として位置づけられています。

制作背景と革新的な作家陣

それまでの太田裕美の楽曲は、自身のセルフプロデュースによる作品や、松本隆と筒美京平といったゴールデンコンビによる提供楽曲が多くを占めていました。しかし、「シングル・ガール」では、作詞家・阿木燿子と作曲家・宇崎竜童という、当時、特に山口百恵の一連のヒット曲を手がけ、日本の音楽シーンの最前線にいた夫妻を初めて起用した点が特筆されます。この大胆な人選は、太田裕美の音楽性を新たな方向へ導く試みであり、より都会的で情景描写に優れた阿木燿子の詞の世界観と、ドラマティックかつ歌謡曲的なメロディを得意とする宇崎竜童の作曲法を取り入れることで、これまでのイメージとは一味違う、大人の情感を表現する楽曲が生まれました。編曲は、数々の名曲のアレンジを手がけ、洗練されたサウンド構築で知られる大村雅朗が担当。阿木・宇崎夫妻が生み出したメロディと詞の魅力を最大限に引き出し、太田裕美のクリアな歌声を引き立てる、豊かなサウンドスケープを創り上げています。

収録曲の詳細

本シングル盤には、表題曲である「シングル・ガール」と、B面に「想い出達の舞踏会」が収録されています。

A面：シングル・ガール
作詞：阿木燿子
作曲：宇崎竜童
編曲：大村雅朗
演奏時間：4分52秒

都会を舞台に、自立した女性の複雑な心情や葛藤を描いた阿木燿子の繊細な歌詞に、宇崎竜童による叙情的でありながら力強さも兼ね備えたメロディが乗せられています。大村雅朗の編曲は、楽曲に深みと広がりを与え、聴き手の感情に訴えかける仕上がりとなっています。

B面：想い出達の舞踏会
作詞：阿木燿子
作曲：宇崎竜童
編曲：大村雅朗
演奏時間：5分09秒

こちらもA面同様、阿木・宇崎夫妻による作品です。A面とは異なるアプローチで、太田裕美の新たな音楽性を表現した楽曲となっています。

社会的反響と『NHK紅白歌合戦』出場

「シングル・ガール」は、それまでの太田裕美のパブリックイメージを踏まえつつも、新しいクリエイター陣とのコラボレーションによる新鮮さが大きな話題を呼びました。そして、その年の年末、1979年12月31日に放送された『第30回NHK紅白歌合戦』において、太田裕美が歌唱する楽曲としてこの「シングル・ガール」が選出されたことは、楽曲の認知度を全国的に高める上で決定的な出来事となりました。紅白歌合戦という国民的番組での披露は、楽曲の人気を不動のものとし、太田裕美の代表曲の一つとしての地位を確立する大きな要因となりました。当時の歌謡曲とニューミュージックというジャンルの垣根が低くなりつつあった時代において、阿木・宇崎夫妻の作品を歌唱し、紅白の舞台に立つことは、太田裕美というアーティストが持つ多様な音楽性を多くの人々に知らしめる機会ともなったと言えるでしょう。

後世への影響と現在

「シングル・ガール」は、太田裕美のキャリアにおいて、阿木燿子・宇崎竜童夫妻という強力な外部作家との初めての本格的な協業であり、その後の彼女の音楽的な探求に影響を与えた可能性のある重要な一歩を示した楽曲です。また、『第30回NHK紅白歌合戦』出場曲として、多くの音楽ファン、特にリアルタイムで活動を見ていた世代にとっては、強い印象を残す一曲となっています。現在でも、太田裕美の多数のベストアルバムやコンピレーション、例えば『GOLDEN☆BEST 太田裕美 コンプリート・シングル・コレクション』などに必ずと言って良いほど収録されており、時代を超えて多くの人々に聴き継がれています。1979年の日本の音楽シーンを彩った楽曲としても、この「シングル・ガール」は記憶されるべき作品です。

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