シンティ・ロマ人

シンティ・ロマは、ヨーロッパに広がるロマニ系民族のうち、主に二つのグループを包括する呼称です。一つは、15世紀頃からドイツ語圏に定住したシンティ（Sinti）。もう一つは、主に東欧に移住し、現在のルーマニアにあたる地域で奴隷とされたロマです。

シンティは、中世の時代に現在のオーストリア、ドイツ、北イタリアといった地域に辿り着いたと考えられています。ドイツ社会に同化した人々も少なくありません。また、シンティからは、優れたミュージシャンが数多く輩出されています。

しかし、ナチス・ドイツの時代には、シンティ・ロマはナチズムのイデオロギーに基づき、「劣等人種」とみなされ、強制収容所に収容され、虐殺されました。犠牲者は30万人から50万人に上ると推定されています。この悲劇的な歴史にも関わらず、被害者や遺族への補償は、ロマに対する根強い人種的偏見や、ユダヤ人団体との対立などから、なかなか進みませんでした。補償が実現したのは、シンティ・ロマ自身の運動や、緑の党などの支援によるところが大きいと言えます。

1971年には西ドイツシンティ中央委員会が結成され、翌年にはドイツ・シンティ連盟に改名。さらに1982年には、ドイツ・シンティ・ロマ中央委員会（評議会）となりました。これらの組織は、シンティ・ロマの権利擁護や文化継承のために活動しています。

一方で、ロマニ系集団間には、アイデンティティの違いも存在します。特にドイツにおいては、トランス・ナショナルな志向を持つ難民のロマと、ナショナル・マイノリティとしての地位を求めるシンティとの間で、対立も報告されています。この背景には、歴史的経験の違いや、社会への統合のあり方に対する考え方の違いなどが考えられます。

シンティ・ロマは、ヨーロッパの歴史の中で、差別や迫害を受けながらも、独自の文化を守り、音楽などの分野で才能を発揮してきました。彼らの歴史を理解することは、ヨーロッパの多様性を理解する上で、重要な意味を持つと言えるでしょう。

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