ジェイムズ・グレゴリー

ジェイムズ・グレゴリー（1941年11月7日-2003年）は、南アフリカ共和国で刑務官として勤務した人物です。彼の名は、ネルソン・マンデラ元大統領との交流を描いた自伝『さようなら、バファナ』によって世界中に知れ渡りました。この自伝は後に映画『マンデラの名もなき看守』として映画化され、大きな話題を呼びました。

グレゴリーは、1968年からロベン島刑務所で勤務を始めます。当初はマンデラを単なる犯罪者として見ていたグレゴリーでしたが、マンデラとの接しを通して、徐々に彼の考えや人格に感銘を受けるようになります。マンデラが収容されていたロベン島での検閲業務や看守業務を通じて、マンデラの人となり、そして政治犯としての彼の強い信念に触れていったのです。コサ語を理解できたことも、彼らの交流を深める上で役立ったと考えられます。

1982年には、マンデラがポルズムーア刑務所に移送されたことに伴い、グレゴリーも同刑務所に転勤します。ここでマンデラとの関係はさらに深まりました。グレゴリーは、マンデラの人格や、妻であるウィニー・マンデラへの深い愛情に感銘を受けます。マンデラの自伝『自由への長い道』にも、グレゴリーへの言及があり、そこでマンデラはグレゴリーの優しさや丁寧な対応について触れています。

グレゴリーの息子、ブレントもまた刑務官として働いていましたが、若くして交通事故で亡くなってしまうという悲劇に見舞われました。この出来事が、グレゴリーの心に深い傷を残したことは想像に難くありません。

1990年2月11日、マンデラが釈放された日、マンデラとグレゴリーは抱擁を交わしました。政治的な議論をすることはなかったものの、マンデラはグレゴリーとの間に特別な絆が生まれたと感じていたようです。マンデラの釈放という歴史的な出来事において、グレゴリーはマンデラに寄り添い、別れを惜しんだのです。

しかし、グレゴリーの回想録『さようなら、バファナ』の内容については、異論もあります。著名なジャーナリスト、アンソニー・サンプソンは、自著『マンデラ 闘い・愛・人生』の中で、映画『マンデラの名もなき看守』の内容、ひいては『さようなら、バファナ』の内容を事実とは異なるものとして批判しています。サンプソンは、グレゴリーがロベン島でマンデラとほとんど会話しておらず、検閲業務を通してマンデラの人物像を垣間見たに過ぎないと主張し、グレゴリーが自身の金儲けのためにこの本を執筆したと非難しています。

1994年5月10日、マンデラが大統領に就任した際には、グレゴリーも招待されています。このことは、マンデラがグレゴリーの貢献を高く評価していた証左と言えるでしょう。しかし、サンプソンの批判のように、その功績についてさまざまな見方があることも事実です。

2003年にグレゴリーが亡くなった後も、映画『マンデラの名もなき看守』によって、彼の名前は世界中に広まりました。ジョセフ・ファインズがグレゴリーを演じたこの映画は、グレゴリーとマンデラとの複雑な関係を再検証するきっかけとなり、今日でも多くの議論を呼んでいます。

グレゴリーの生涯は、人種差別が色濃く残る南アフリカにおける複雑な人間関係、そして歴史の影に隠された個人の葛藤を示す物語です。彼の回想録は、多角的な視点から解釈する必要があり、単なる感動的な物語としてではなく、歴史の一側面として受け止めるべきでしょう。彼の功績と批判を理解することは、南アフリカの歴史、そして人権問題を考える上で重要な要素となるはずです。

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