ジェームズ・ランディ

ジェームズ・ランディとは

カナダのトロントで生まれたジェームズ・ランディ（1928-2020）は、本名をランドール・ジェームズ・ハミルトン・ツウィンゲといい、プロの奇術師であると同時に、徹底した疑似科学批判家、そして揺るぎない懐疑論者でした。彼は「ジ・アメージング・ランディ」という芸名でも広く知られています。

活動の原点と経歴

ランディがこうした活動に身を投じるきっかけは、15歳の頃に経験した出来事にあります。宗教集会で行われていた「降神術」のトリックを見破った彼は、逆に集会の参加者から反発を受け、警察に一時拘束されてしまいました。ランディはこの経験が、後に彼が心霊術師や超能力者によるイカサマを暴くことに生涯を捧げる動機となったと語っています。

1950年代から脱出マジックを得意とするプロのマジシャンとして活躍した後、1970年代には著名なスプーン曲げ師ユリ・ゲラーとの公開対決で世界的な注目を集めました。1980年代には、人気テレビ伝道師による信仰治療のトリックを暴露するなど、多くの人々の目を覚まさせる活動を続けます。彼はCSICOP（サイコップ）の創設メンバーの一人であり、その功績を称えられて小惑星に彼の名前が冠せられたり、サイコップ主催のアンケートで「20世紀を代表する懐疑論者10傑」の第1位に選ばれたりするなど、懐疑論者コミュニティにおいて極めて高く評価されました。

ランディ自身は、そうした活動の動機を「怒り」であると表現しました。ただし、その怒りはオカルト的なもの自体ではなく、人々が無批判にそれを信じた結果、搾取されたり、屈辱を受けたり、さらには命を危険にさらされたりする状況に対するものでした。しかし、彼は自身も完璧な人間ではないと認識しており、時として感情的になったり、相手への配慮に欠けたりする面があったことも省みています。

彼の主な活動は、マジックの公演や、疑似科学の危険性について警告する講演でした。科学界からもその貢献は広く認められ、マッカーサー財団の「天才助成金」を受給。この資金をもとにジェームズ・ランディ教育財団を設立し、科学的探求や疑似科学の検証活動への資金援助を行いました。日本にも何度か来日しており、テレビ番組で自称超能力者のトリックを暴いたこともありますが、その解析部分が放送でカットされ激怒したというエピソードも残っています。

主な検証プロジェクトと社会実験

ランディは、個人レベルでの批判だけでなく、大規模な検証プロジェクトや社会実験も行いました。

プロジェクト・アルファ

マクドネル超能力研究所という研究機関があった際、ランディは研究者に対し、どのようにすれば超能力の実験でイカサマを見抜けるかアドバイスを申し出ましたが、これは断られました。そこでランディは、若いマジシャン2人を研究所に潜入させ、彼らに超能力があると信じ込ませるという大胆な計画を実行しました。この「プロジェクト・アルファ」は3年間続き、マジシャンたちは金属曲げや念写、テレパシーなどの「超能力」を披露しましたが、研究員は誰一人としてそれが手品であることを見抜けませんでした。この事実が暴露された後、研究所は閉鎖に至りました。

カルロス事件

1988年、ランディはオーストラリアのテレビ局と共同で、メディアと一般大衆が虚偽の情報にどれほど簡単に騙されるかを検証する社会実験を行いました。オカルトとは無縁の知人ホセ・アルバレスを起用し、彼をカリスマ的なチャネラー「カルロス」に仕立て上げました。入念な準備とトリック（例えば、脈拍を止めて仮死状態を装う方法など）を施し、「2000歳の精霊と交信する」という触れ込みでオーストラリアに上陸したカルロスは、テレビ番組に出演し、小型無線機を使ったトリックやコールド・リーディング、抽象的な「カルロス文書」などを駆使して多くの人々を魅了しました。彼は瞬く間に人気者となり、複数のメディアで「本物のチャネラー」として取り上げられました。この「チャネリング」ショーがシドニーのオペラハウスで最高潮に達した際、ランディは全てが仕組まれた偽りであったことを公表しました。この暴露に社会は騒然となり、カルロスを本物として扱ったメディアは信用を失いました。ランディは、簡単な検証さえ怠ったメディアの姿勢を厳しく批判し、「人々がいかに簡単に騙されるか、そしてメディアを騙すのもいかに容易であるか」を示した事例として、この事件の意義を語りました。

100万ドル超能力チャレンジ

ジェームズ・ランディ教育財団の主要な活動として、「科学的に実証可能な超能力を持つ人物に100万ドルの賞金を授与する」という「100万ドル超能力チャレンジ」を主催しました。厳格な二段階の検証プロセスが設けられ、世界中から多くの挑戦者が現れましたが、科学的な証明をクリアし賞金を獲得した者は一人も現れませんでした。このチャレンジは2015年に終了しました。2007年に日本のテレビ番組に出演した際も、自称霊能者の挑戦を退け、「証明できない力を安易に信じてはいけない」「それは個人にも社会にも危険をもたらす」と強い警告メッセージを視聴者に送っています。

ジェームズ・ランディは、その生涯を通じて、懐疑主義の重要性と、疑似科学や詐欺的な主張がもたらす危険性について、身をもって示し続けました。彼の活動は、科学的思考とクリティカルシンキングの普及に大きな影響を与えました。

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