ジケトピロロピロール

ジケトピロロピロール（diketo-pyrrolo-pyrrole、略称DPP）は、特定の環状構造を持つ有機化合物の一種です。この構造を基盤とし、その一部が他の置換基に置き換わった誘導体が、特に優れた発色性を持つ有機顔料として知られています。一般的に「ジケトピロロピロール」という名称は、元の化合物そのものよりも、これらの一連の誘導体である高性能なジケトピロロピロール系顔料（DPP顔料）を指す総称として広く用いられています。

DPP顔料は、1980年代初頭に開発された比較的新しい顔料群であり、鮮やかな橙色から赤色の発色を特徴とします。これらの顔料は、その高い発色強度と、光や熱、溶剤などに対する優れた耐性（堅牢性）から、様々な分野で重用されています。

DPP顔料の大きな特徴の一つとして、顔料粒子の大きさを調整することで、その透明度をコントロールできる点が挙げられます。例えば、粒子径が小さい、すなわちより微細な粒子で構成された顔料は、わずかに青みがかった色合いを示し、比較的高い透明性（隠蔽性が低い）を持ちます。しかし、完全に透明というわけではなく、用途によっては十分な隠蔽性も発揮します。

国際的な顔料の識別体系であるカラーインデックス（Colour Index）には、このDPP系統に属する多くの顔料が登録されています。代表的なものとして、Pigment Red 254 (PR254)、Pigment Red 255 (PR255)、Pigment Red 264 (PR264)といった赤色顔料や、Pigment Orange 71 (PO71)、Pigment Orange 73 (PO73)といった橙色顔料が含まれます。これらのDPP顔料は、いずれも鮮やかで純粋な色合いと、非常に高い堅牢性を兼ね備えています。

特にPigment Red 254やPigment Red 255は、その優れた特性から、絵具の世界ではしばしば「ピロールレッド」あるいは「パイロールレッド」という名称で知られ、広く利用されています。これらの顔料は、実用的なRGB（Red, Green, Blue）色空間における赤（R）に近い、わずかに黄みを帯びた赤色を示します。

DPP顔料は、単独での使用に加え、他の顔料との組み合わせや応用も進んでいます。例えば、同じく高性能顔料であるキナクリドンとの混晶顔料の研究・開発が進められており、既に市場に流通しています。これらのキナクリドン-ピロール混晶顔料は、特定の性能や色特性を追求するために開発され、特に絵具などの分野で手軽に入手できるようになっています。

また、DPP顔料は高度な技術分野でも活用されています。とりわけPigment Red 254は、その鮮明な赤色と高い堅牢性が評価され、液晶ディスプレイなどのカラーフィルターにおいて、赤色の発色層を構成する主要な顔料として頻繁に採用されています。この用途においては、かつて広く使われていたPigment Red 177と比較しても、より優れた光学特性や耐久性を示すため、置き換えが進んでいます。カラーフィルター用途では、求める赤色の色度を精密に調整するために、Pigment Orange 71やPigment Yellow 139といった、より黄みがかった他の顔料が補助的に少量配合されることもあります。

Pigment Red 255は、同じDPP系統の赤色顔料であるPigment Red 254と比較した場合、色相がよりはっきりと黄みがかっており、彩度はやや控えめであるという違いが見られます。このように、DPP顔料群には、わずかな構造の違いによって様々な色相や特性を持つ品種が存在し、幅広い用途でその性能を発揮しています。

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