ジャイロン (紋章学)

ジャイロンとジャイロニー：紋章学における放射状の意匠

紋章学において、シールド（盾）は様々な意匠で飾られます。その中でも、中心から放射状に広がる模様を作り出すのが、ジャイロンとジャイロニーです。

ジャイロン（Gyron, Giron）

ジャイロンは、シールドの中心点（フェス・ポイント）を頂点の一つとする三角形のチャージ（図案）です。オーディナリー（基本的な紋章要素）の一種であり、サブオーディナリーに分類されることもあります。

ただし、ジャイロンが単独で使用されることは非常に稀です。ほとんどの場合、後述するジャイロニーとして、フィールド（シールドの地色）の模様として描かれます。

文献によっては、ジャイロニーという語はあってもジャイロンという語自体が登場しない場合や、ジャイロンをチャージとしてではなく、放射状の模様であるジャイロニーとして扱う場合もあります。

ジャイロンの定義

ジャイロンは通常、以下の様に定義されます。

* シールドの右上の隅（デキスター・チーフ）と、フェス・ポイントを通る右側の辺への垂線との交点を頂点とする直角三角形

ただし、8分割以外のジャイロニーでは直角三角形にならないため、必ずしも直角である必要はありません。直角三角形の場合、クォーター（シールドの四分の一）を斜めに二等分したものの下半分とみなされることもあります。

ジャイロニー（Gyronny, Gironny, Gironnée）

ジャイロニーは、フェス・ポイントを中心として、フィールドを放射状に複数の領域に分割したものです。3つ以上の等しい角度で分割されます。

紋章記述では通常、`gyronny of eight, Argent and Gules.`のように、`gyronny of (分割数) (色1) and (色2).` の形式で記述されます。分割数と、配色に使用するティンクチャー（色）を2色指定します。このとき、金属色（金・銀）と原色（赤・青・緑・黒）から1色ずつ選びます。

紋章記述の原則に従い、右上の四分の一（デキスター・チーフのクォーター）に着目し、その上半分の色を先に、下半分を後に記述します。記述の順序を逆にすると、色分けが45度ずつ回転します。

分割数

分割数は偶数であることが一般的で、8分割が最も多く、次いで6分割、10分割、12分割が多く見られます。理論上はさらに多くの分割も可能ですが、実際に使用例は非常に稀です。

4分割や2分割は、それぞれ別の表現（クォータリー、パー・ペールなど）があるため、ジャイロニーとは記述されません。

単に`gyronny`とだけ記述した場合は、8分割を意味し、クォータリーとパー・サルタイアー（斜め十字）の複合と解釈されます。また、6分割の場合は、パー・フェス（水平分割）とパー・サルタイアーの複合と解釈されます。

ジャイロニーの適用例：キャンベル氏族

ジャイロニーが用いられている紋章として最も有名なのは、スコットランドのキャンベル氏族の紋章です。その紋章記述は`Gyronny of eight Or and Sable.`（金と黒の8分割）とされています。

キャンベル家の分家では、金（Or）と黒（Sable）以外のティンクチャーを使用したり、ジャイロニーに別のチャージ（図案）を重ねたりした紋章を使用している例があります。

ジャイロンとジャイロニーは、紋章に独特の放射状の美しさをもたらす意匠です。

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