ジャック・テュルゴー

アンヌ＝ロベール＝ジャック・テュルゴーについて

アンヌ＝ロベール＝ジャック・テュルゴー（1727年5月10日 - 1781年3月18日）は、フランス・ブルボン朝時代に活躍した政治家であり経済学者です。彼は重農主義経済学の重要な代表人物として知られ、啓蒙思想の一端を担った思想家でもあります。テュルゴーは、その著作や思想が後の経済学に与えた影響から「啓蒙主義経済学者」とも称されます。彼の最も著名な業績の一つは「社会の段階的発展論」であり、これは人類の社会発展に技術や経済的進歩がどのように寄与するかを考察したものです。

経歴

テュルゴーはパリの名門の家に生まれ、幼少期から神学を学びました。1749年にソルボンヌ神学部に入学後、多岐にわたる学問を修得し、1750年にはソルボンヌ僧院長に選出されます。父の死後彼は僧籍を離れ、1752年にはパリ高等法院検事総長補佐官として国王政府に仕官。1754年には商務監督官ヴァンサン・ド・グルネーの知遇を得て、彼の視察旅行に同行しました。その後、1761年にリモージュ州の総徴税区長官に任命され、1774年までその職にありました。

1774年からは海軍大臣、同年8月には財務総監に任命されました。在任中は穀物取引の自由化やギルドの廃止を進め、財政再建を試みますが、1775年の農作物不作により引き起こされた「小麦粉戦争」に直面し、批判を受けて1776年に辞職しました。その後は隠遁生活を送り、1781年に痛風により死去しました。

哲学と経済思想

テュルゴーの思想は彼の最高傑作である『富の形成と分配に関する諸考察』に色濃く見られます。この著作では、重農主義に資本の概念を取り入れ、剰余の形成についての独自の見解を示しました。また、剰余と成長の関連性を明示し、市場価格と自然価格の区別を初めて明確にした人物の一人でもあります。彼の考えは後にアダム・スミスの古典派経済学に引き継がれ、発展していきます。

特に1769年に発表した『価値と貨幣』では、需給に基づく価格理論を展開し、取引者が増えることで交換の非決定性が減少することを示しました。このテーマは後の経済学でも重要視され、エッジワースなどが引き継いでいきます。

また、テュルゴーは生産の投入比率を可変にすることを提唱し、限界生産性の逓減に関する概念を初めて考え出しました。彼の1776年に行った貨幣に関する議論も、実質金利と名目金利の区別をする重要なものでした。

技術的、経済的な進歩と社会発展

デヴィッド・クレーバーとデヴィッド・ウエングロウの著作『万物の黎明』では、テュルゴーの考えが技術的および経済的進歩による社会発展段階論の先駆けとして紹介されています。彼の思想は、未開社会には自由や平等があったものの、社会の発展に伴って、その自由が失われていく過程を説明し、農業文明や商業文明への移行を論じました。これはスミスやファーガソンらの経済理論に組み込まれ、現代経済学に大きな影響を与えました。

邦訳と著作

テュルゴーの著作は数多くあり、日本語訳も存在します。特に『富に関する省察』や「チュルゴ経済著作集」は、彼の経済思想を学ぶための重要な資料です。1793年には、彼の主な業績がまとめられた著作集が出版され、今なお引用されることがあります。彼の思想は、経済学の枠を超えて、さまざまな学問分野に影響を与えてきました。今後もテュルゴーの仕事は、経済学や歴史、社会学の研究において重要な位置を占めることでしょう。

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