ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵No.1と呼ばれた男

『ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵No.1と呼ばれた男』は、2008年にフランス、カナダ、イタリアが共同製作した映画作品です。本作は、1960年代から70年代にかけてフランス及びカナダで悪名を馳せ、「社会の敵No.1（パブリック・エネミー・ナンバーワン）」と称された実在の犯罪者、ジャック・メスリーヌの劇的な生涯を克明に描いた伝記映画として製作されました。その膨大な物語は、前編にあたる『Part1 ノワール編』（原題：L'Instinct de mort）と、後編にあたる『Part2 ルージュ編』（原題：L'Ennemi public n° 1）の二部構成で展開されます。

物語の前編である『Part1 ノワール編』では、アルジェリア戦争での兵役を終えて故郷パリへ戻ってきたメスリーヌが、いかにして犯罪の世界へと足を踏み入れていくかが描かれます。幼なじみのポールと共にギャングとして頭角を現していく過程や、様々な女性との関係などが綴られ、彼の破滅的な人生の幕開けが活写されます。このPart1には、主人公ジャック・メスリーヌを演じるヴァンサン・カッセルを中心に、ジャンヌ・シュネデール役のセシル・ドゥ・フランス、ギド役のジェラール・ドパルデュー、ソフィア役のエレナ・アナヤなど、フランス映画界を代表する実力派俳優たちが名を連ねています。メスリーヌの犯罪者としてのキャリアが確立されていく、彼の「本能」に焦点を当てたパートと言えるでしょう。

続く後編『Part2 ルージュ編』では、Part1のラストでカナダへと逃れたメスリーヌが、そこで逮捕されながらも奇跡的な脱獄を成功させ、再びフランスへと戻った後の壮絶な日々が描かれます。フランスでも再び銀行強盗などを繰り返し、国家権力から追われる身となりながらも、その大胆不敵な行動から大衆の注目を集めていく様子が描かれます。このパートでは、ジャック・メスリーヌ役のヴァンサン・カッセルに加え、シルヴィア・ジャンジャコ役のリュディヴィーヌ・サニエ、フランソワ・ベス役のマチュー・アマルリック、ブルサール警視役のオリヴィエ・グルメといった新たなキャストが加わり、メスリーヌと彼を取り巻く人々、そして彼を追う警察との緊迫したドラマが展開されます。まさに国家にとっての「敵No.1」として追われる彼の最期までが描かれるクライマックスパートです。

日本においては、まず2008年に開催された第21回東京国際映画祭のコンペティション部門にて、『パブリック・エナミー・ナンバー1』というタイトルで前後編がまとめて特別上映されました。その後、2009年11月7日より、『ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵No.1と呼ばれた男』という正式タイトルで、Part1とPart2が順次劇場公開されました。

本作は、その高い完成度と主演俳優の熱演が高く評価されました。フランス映画界最高の栄誉とされる第34回セザール賞では、ジャン＝フランソワ・リシェ監督が監督賞を受賞したほか、主演のヴァンサン・カッセルが男優賞に輝きました。さらに、日本での東京国際映画祭においても、ヴァンサン・カッセルはコンペティション部門の最優秀男優賞を受賞しており、国際的にも彼の演技が絶賛されたことが分かります。

ジャック・メスリーヌという稀代の犯罪者の生涯を、単なる犯罪記録としてではなく、一人の人間の光と影、そして彼が生きた時代の社会状況を織り交ぜながら描き出した本作は、主演のヴァンサン・カッセルの鬼気迫る演技によって、観る者に強烈な印象を残す作品となっています。彼がいかにして「社会の敵No.1」となり、そしてその生涯を終えたのか。二部作を通して、その全てが濃密に描かれています。

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