ジャン＝ピエール・バクリ

ジャン＝ピエール・バクリ（Jean-Pierre Bacri）

フランスの俳優、そして脚本家として、長年にわたりフランス映画界で確固たる地位を築いたジャン＝ピエール・バクリは、1951年5月24日に生まれ、2021年1月18日にその生涯を閉じました。特に、自身の妻であり映画監督、脚本家、女優でもあるアニエス・ジャウィとの創造的なパートナーシップは、彼のキャリアにおける最も重要な特徴として知られています。

アルジェリアのブ・イスマイル（当時はフランス領アルジェの一部、カスティリオーヌ）で生を受けたバクリは、幼い頃から熱心な映画ファンでした。毎週のように映画館に通い、映画の世界に魅せられて育ちます。1962年、アルジェリアが独立を果たしたことを機に、一家はフランス本土のカンヌへ移住。バクリはカンヌで文学を修めた後、俳優を志し、1976年にパリへと活動の拠点を移します。

俳優としてのキャリアは、様々な作品への出演から始まりました。その初期の出演作の一つに、リュック・ベッソン監督の1984年の作品『サブウェイ』があります。また、クロード・ピノトー監督の『7thターゲット / 第7の標的』（1984年）や、ジャン＝シャルル・タケラ監督の『C階段』（1985年）など、80年代には多くの映画に出演し、俳優としての経験を積みました。

彼のキャリアが新たな段階を迎えたのは、アニエス・ジャウィとの共同作業を開始してからです。二人は共同で脚本を執筆し、互いの、あるいは他の監督の作品に出演するという独特のスタイルを確立しました。アラン・レネ監督の革新的な作品『スモーキング / ノー・スモーキング』（1995年）では共同で脚本を担当し、その才能が広く認知されるようになります。

さらに、セドリック・クラピッシュ監督の『家族の気分』（1996年）では共同脚本とともに出演。そして、再びアラン・レネ監督と組んだ『恋するシャンソン』（1997年）では、共同脚本に加え主要な役柄を演じ、その演技が高く評価され、1998年のセザール賞で最優秀助演男優賞を受賞しました。これは、俳優としてのバクリの確かな実力を示すものでした。

ジャウィが監督を務めた作品においても、二人の協力関係は続きました。1999年の『ムッシュ・カステラの恋』、そして2004年の『みんな誰かの愛しい人』では、共同脚本とともに出演し、人間味あふれるキャラクターと機知に富んだ会話で観客を魅了しました。これらの作品は高く評価され、特に『みんな誰かの愛しい人』は第57回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞するなど、国際的な成功を収めました。

ジャン＝ピエール・バクリとアニエス・ジャウィのコンビは、フランス映画界で数々の栄誉に輝きました。共同でセザール賞最優秀脚本賞を実に4度にわたり受賞したことは、彼らの脚本家としての卓越した才能を証明しています。また、ヨーロッパ映画賞や、2001年にはアカデミー・フランセーズから永年功労賞として贈られるルネ・クレール賞を受賞するなど、国内外で多くの評価を受けました。

ユーモアの中に人生の哀愁や社会への洞察を織り交ぜた彼らの作品は、多くの人々に愛されました。俳優としても、一癖ある人物から心優しい人物まで、幅広い役柄を自然体で演じ分け、フランス映画に欠かせない存在となりました。

晩年も精力的に活動を続け、2017年にはエリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ監督作『セラヴィ!』などに出演しましたが、2021年1月18日、がんとの闘いの末、パリで惜しまれつつこの世を去りました。享年69歳でした。

ジャン＝ピエール・バクリは、俳優として、そして脚本家として、アニエス・ジャウィと共にフランス映画史にユニークで輝かしい足跡を残しました。彼の残した作品群は、今もなお多くの人々に鑑賞され続けています。

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