ジュゼッペ・パターネ

ジュゼッペ・パタネ

ジュゼッペ・パタネ（Giuseppe Patanè, 1932年1月1日 - 1989年5月29日）は、20世紀後半に活躍したイタリアの著名な指揮者です。特にオペラ指揮者として国際的な評価を得ました。父も著名な指揮者フランコ・パタネであり、彼は幼少期から音楽に深く関わる環境で育ちました。

生涯

パタネは1932年、イタリア南部の歴史的な都市ナポリで生を受けました。彼は幼い頃から並外れた音楽的才能を示し、わずか8歳にして、高名な作曲家ピエトロ・マスカーニのオペラ公演でレペティトゥール（歌手のリハーサル伴奏者）を務めたというエピソードは、彼がまさに音楽の神童であったことを物語っています。

故郷ナポリの音楽教育機関、サン・ピエトロ・ア・マジェッラ音楽院で専門教育を受け、フランチェスコ・チレアらから指導を受けました。16歳となった1948年には、ヴェネツィアのメルカダンテ劇場において、ジュゼッペ・ヴェルディのオペラ『椿姫』を指揮してプロ指揮者としてデビューを飾ります。その後、1951年にはナポリの名門サン・カルロ劇場で副指揮者を務めるなど、着実にキャリアを積み重ねました。

活躍の場は次第にイタリア国外へと広がり、イギリス、スイス、当時の西ドイツ、さらにはエジプトや南アフリカといった様々な国でオペラ指揮を行いました。1961年にはオーストリアのリンツ歌劇場音楽監督に就任。この間もイタリア国内の劇場からの客演依頼に応じ、本国での活動も続けました。1962年からは、ベルリン・ドイツ・オペラを中心に、ドイツ語圏での指揮活動が活発になります。

パタネのキャリアにおける決定的な転機は1969年でした。この年、彼はイタリア・オペラの最高峰であるミラノ・スカラ座でのデビューを成功させます。スカラ座での成功を足がかりに、彼はイタリア・オペラ指揮者として国際的な名声を確立し、世界中の主要歌劇場から引っ張りだこになりました。ニューヨークのメトロポリタン歌劇場、サンフランシスコ歌劇場、ドイツのバイエルン国立歌劇場など、名だたる歌劇場でオペラ公演を指揮し、その手腕は高く評価されました。

オペラ指揮者としての活動が中心でしたが、交響楽団との共演も行い、1982年から1984年にかけては、ニューヨークを拠点とするアメリカ交響楽団の首席指揮者を務めています。

音楽的特徴と遺産

ジュゼッペ・パタネは、特にヴェルディやプッチーニに代表されるイタリア・オペラの伝統的な解釈で知られました。彼の指揮は情熱的でありながらも、スコアに対する深い理解と正確さを兼ね備えていました。驚異的な記憶力は特筆され、250曲を超えるオペラ全曲を暗譜していたと言われます。レパートリーはイタリア・オペラが中心でしたが、フランス・オペラにも積極的に取り組み、サン＝サーンスの『サムソンとデリラ』などの録音も残しています。

彼の生涯最後の録音となったのは、皮肉にも最期の舞台となったのと同じ、ロッシーニの喜劇オペラ『セビリアの理髪師』でした。この録音は1988年にデッカ・レコードからリリースされています。

悲劇的な最期

パタネのキャリアは突然の、そして悲劇的な形で幕を閉じました。1989年5月29日、彼はドイツのバイエルン国立歌劇場でロッシーニの『セビリアの理髪師』を指揮中に、舞台上で突如心臓発作に見舞われ倒れました。そのまま帰らぬ人となり、57歳でこの世を去りました。彼が生涯を捧げたオペラハウスの舞台上での最期は、世界中の音楽ファンに大きな衝撃を与えました。脂の乗り切った時期での早すぎる死が惜しまれましたが、ジュゼッペ・パタネは、数多くの名演と録音を通して、今なお多くの人々に記憶されています。

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