ジョセフ・クラーク

ジョセフ・クラーク（Joseph Clark, 1861年 11月30日 - 1956年4月14日）は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍したアメリカ合衆国のテニス選手です。ペンシルベニア州ジャーマンタウンの出身で、フルネームは Joseph Sill Clark です。「ジョー・クラーク」（Joe Clark）の愛称でも親しまれました。彼は有名なテニス一家に育ち、2歳年上の兄であるクラレンス・クラーク（1859年 - 1937年）も国際テニス殿堂入りを果たした偉大な選手でした。

クラークはハーバード大学の学生テニスプレーヤーとして、まだ歴史の浅かった全米選手権（現在の全米オープンテニス）や全米大学対抗テニス選手権で目覚ましい活躍を見せました。今日の全米オープンとは異なり、1881年に始まった当初の全米選手権は、男子シングルスと男子ダブルスがそれぞれ別の名称を持ち、会場も必ずしも同じではありませんでした。特に、最初の6年間、1881年から1886年までは、「全米シングルス選手権」と「全米ダブルス選手権」の両部門が、ロードアイランド州ニューポートにある「ニューポート・カジノ」で開催されていました。

ジョセフ・クラークは1882年の第2回全米選手権から出場を開始しました。シングルス部門では、1885年から1887年にかけて3年連続で準決勝に進出しましたが、残念ながら決勝の舞台には一度も立つことはできませんでした。しかし、ダブルスではその才能を存分に発揮します。1885年の全米ダブルス選手権において、彼は同じハーバード大学のチームメイトであったリチャード・シアーズとペアを組みました。決勝戦では、ヘンリー・スローカムとパーシー・クナップのペアを相手に、6-3, 6-0, 6-2という圧倒的なスコアで勝利し、見事タイトルを獲得しました。

また、クラークは全米大学対抗テニス選手権においても輝かしい成績を残しています。彼はリチャード・シアーズと共に、大学テニスのライバルとして激しい優勝争いを展開しました。特に1883年の大会では、シングルスとダブルスの両方で優勝する単複二冠を達成しています。黎明期の全米大学選手権は、コネチカット州ハートフォードにある精神病院という異色の場所で開催され、当時の記録によると、入院患者の一部がボールボーイを務めたという逸話も残されています。

クラーク兄弟は、初期のアメリカテニス界の国際交流においても重要な役割を果たしました。1883年には、ジョセフとクラレンスの兄弟はイギリスへの遠征を敢行し、当時の英国を代表する名選手であったウィリアムとアーネストの「レンショー兄弟」と2度の親善ダブルス試合を行いました。これらの試合には敗れたものの、この遠征がきっかけとなり、翌1884年にはリチャード・シアーズ、ジェームズ・ドワイト、A・L・ライブズの3名のアメリカ人選手がウィンブルドン選手権に初出場を果たし、同大会史上初のアメリカ人出場者となりました。クラーク兄弟自身はウィンブルドンには出場しませんでしたが、彼らの親善遠征が、後のアメリカ人選手の海外進出への道を開いたと言えるでしょう。

選手としてのキャリアを終えた後も、クラークはテニス界への貢献を続けました。1889年から1891年までの3年間、全米テニス協会（USTA）の会長という要職を務め、アメリカのテニス組織の発展に尽力しました。

1954年、全米シングルス選手権が初めて開催された地であるロードアイランド州ニューポートに「国際テニス殿堂」が設立されました。翌1955年に行われた第1回の殿堂入り式典では、ジョセフ・クラークはリチャード・シアーズらと共に、栄えある最初の殿堂入り選手7名の一人に選ばれました。アメリカ男子テニスの草創期を牽引した功績が称えられたのです。殿堂入り式典の際には、彼は最初の殿堂入りメンバーの中で唯一の存命者でした。その後、彼は1年後の1956年4月14日、94歳の高齢でその生涯を閉じました。

ジョセフ・クラークは、全米選手権初期のタイトル獲得者であり、全米大学テニス界のスター、そしてテニス組織のリーダーとしても活動しました。彼の功績は、現代につながるアメリカテニス界の礎を築く上で不可欠なものであり、その名は国際テニス殿堂に永く刻まれています。

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