ジョゼフ・バーバラ

ジョセフ・バーバラ：アパラチン会議の影の男

ジョセフ・バーバラ（Joseph Barbara）、本名ジュゼッペ・マリア・バルバラ（Giuseppe Maria Barbara）は、1905年8月9日、イタリア・シチリア島で生まれました。16歳でアメリカに移住し、ペンシルベニア北東部ファミリー（後のブファリーノ・ファミリー）で活動を開始します。バーバラは、その冷酷さと手腕で急速に頭角を現し、ファミリーの中枢へと上り詰めていきました。

若い頃には、酒類密輸に関わる抗争に巻き込まれ、複数の殺人事件に関与した疑いがかけられました。中でも1933年に起きた酒類密輸業者サム・ウィチナー殺害事件は、バーバラの凶暴性を示す象徴的な出来事として伝えられています。しかし、証拠不十分で起訴は免れています。また、1940年代にはファミリーのボス、ジョン・シアンドラの殺害にも関与したと噂されましたが、シアンドラが自然死したという記録もあり、真相は藪の中です。

1936年、バーバラはジョセフィン・ヴィヴォーナと結婚し、2人の息子と1人の娘をもうけました。彼は一見すると普通の家族の父親として生活していましたが、その裏では暗躍を続け、徐々にファミリーの支配力を強めていきます。1944年には、ニューヨーク州アパラチンに広大な土地を購入し、豪邸を建設。地元の有力者との関係を築き、慈善活動にも参加するなど、表向きは立派な実業家として振る舞っていました。1946年には砂糖の違法取引で有罪判決を受けますが、その後はソフトドリンク事業に参入し、カナダドライのボトリング工場などを取得。ニューヨーク州ビンガムトンの飲料市場を支配するほどの成功を収めました。

バーバラの転機となる出来事が、1957年に起こったアパラチン会議です。この会議は、ヴィト・ジェノヴェーゼがコーサ・ノストラの全米統一を目論んで開催を指示しました。ジェノヴェーゼは、会議の開催をステファノ・マガディーノ（ニューヨーク州バッファローのボス）に委託し、マガディーノはバーバラとラッセル・ブファリーノに会議の監督を任せたのです。

1957年11月14日、バーバラの邸宅には全米からマフィア幹部が集まりました。会議の主要議題は、キューバでの賭博と麻薬密輸、ニューヨークの衣料産業における犯罪的利権など多岐に渡りました。しかし、地元警察の監視によって、会議は発覚することとなります。警察官エドガー・D・クロスウェルは、バーバラ邸への高級車の出入りを察知し、会議の開催を疑っていました。警察の急襲は、会議の参加者を大混乱に陥れました。多くのマフィアは森の中を逃げ惑い、60名以上が逮捕されるという事態に発展したのです。

逮捕されたメンバーには、ジェノヴェーゼ、カルロ・ガンビーノ、ジョセフ・プロファチ、ジョセフ・ボナンノといったコーサ・ノストラの大物も含まれていました。逮捕者たちは、バーバラの見舞いに来たと主張しましたが、結局全員が罰金刑と懲役刑を宣告されました。しかし、判決は後に覆されることとなります。アパラチン会議は、それまで謎に包まれていたコーサ・ノストラの存在を世間に知らしめ、FBIによる本格的な捜査開始を促すきっかけとなりました。

会議の失敗後、バーバラは司法当局の厳しい捜査を受け、脱税などの罪で起訴されました。ビジネスも傾き、健康状態も悪化し、1959年6月17日、心臓発作により死去します。彼の死後、アパラチンの邸宅は売却され、しばらくの間は観光スポットとなりました。バーバラの死後、ブファリーノがファミリーのボスを引き継ぎました。アパラチン会議は、アメリカマフィアの暗部を暴き、その後の組織犯罪対策に大きな影響を与える、歴史的な事件として記憶されています。

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