ジョルジュ・ブラック

ジョルジュ・ブラック：キュビスムの巨匠

ジョルジュ・ブラック(1882-1963)は、パブロ・ピカソと並ぶキュビスムの創始者として名高いフランスの画家です。ピカソと比較すると、商業的な成功においては劣るものの、その画業における革新性と独創性はピカソからも高く評価されていました。第一次世界大戦を挟み画風は変化するものの、生涯を通じて創作活動を続け、多大な影響を与えた画家と言えるでしょう。

生涯と芸術的遍歴

セーヌ川沿いのアルジャントゥイユに生まれ、ル・アーヴルで育ったブラックは、ペンキ屋の見習いのかたわら、エコール・デ・ボザールで絵画を学びました。1900年にパリへ移り住み、初期の頃はアンリ・マティスの影響を受け、野獣派に傾倒した作品も制作しています。その後、セザンヌの回顧展やピカソの『アヴィニョンの娘たち』を目にしたことが大きな転機となり、セザンヌとピカソの影響を融合させた独自の画風を確立していきました。

1908年には、セザンヌ風の風景画の中に既にキュビスム的な要素が垣間見られる『レスタックの家々』や、最初のキュビスム作品とされる『家と木』を制作。ピカソがアフリカ美術からキュビスムへ発展したのに対し、ブラックはセザンヌへの探求からキュビスムに到達した点が特徴的です。このアプローチは、後のキュビスム絵画の発展に大きな意味を持ちます。

1909年、ブラックとピカソは共同制作を始め、そのキュビスム作品がサロンに出品されたことで大きな話題を呼びました。しかし、画商ダニエル＝ヘンリー・カーンワイラーの意向により、しばらくは公の場での展示を控え、その間、カーンワイラーは海外での展示を通じてキュビスムを世界に広めていきました。

初期のキュビスム作品は、色彩を抑え、分析的な表現が特徴的でした。1911年前後には、新聞の断片から文字を取り入れ、作品に組み込むという試みも行っています。これは、難解な抽象表現の中に現実的な要素を加えることで、作品に新たな深みを与えたと言えるでしょう。また、この頃からブドウやバイオリンといったモチーフも頻繁に登場するようになります。

1912年頃からは、カンバスに木目を描き込んだり、絵具に砂を混ぜるなど、後のコラージュやパピエ・コレに通じる手法を取り入れ始めます。そして、1914年に第一次世界大戦が勃発。出征のためピカソとの共同制作は中断し、カーンワイラーからの支援も途絶えてしまいます。

しかし1917年、ブラックは制作を再開。画商レオンス・ローザンベールと契約し、1919年には個展を開催します。大戦後、ブラックは以前のキュビスム様式からは離れ、より落ち着いた静物画を多く制作するようになりました。幾何学的な表現から色彩豊かなスタイルへと移行し、楽譜や書籍の挿絵なども手がけています。

晩年は、黒や灰色、茶色を基調とした静物画を制作。1963年、パリで亡くなりました。

主要作品と影響

ブラックの作品は、その幾何学的な構成と、色彩の抑制された表現、そしてコラージュやパピエ・コレといった手法の革新性によって、現代美術に大きな影響を与えました。代表作には、『レスタックの風景』『ポルトガル人』『家と木』『ラム酒のビン』『果物とナイフ』などがあり、世界中の美術館に収蔵されています。ブラックの芸術は、キュビスムという革新的な芸術運動の中心的存在であり、後世の画家たちに多大な影響を与え続けているのです。

参考文献

ブラックの作品集や評伝は数多く存在します。日本語で入手可能なものとしては、『昼と夜 ジョルジュ・ブラックの手帖』や、様々な出版社から刊行されている画集などが挙げられます。これらの文献を通じて、ブラックの生涯と芸術世界をより深く理解することができます。

もう一度検索