ジョルジョ・モランディ

ジョルジョ・モランディ：静寂と深遠の画家

ジョルジョ・モランディ (1890-1964) は、20世紀前半に活躍したイタリアの画家です。数々の芸術運動が台頭し消えていった時代において、彼は独自のスタイルを確立し、静物画を中心に、ひたすら自己の芸術を追求しました。その静謐で瞑想的な作品世界は、現代においても高い評価を得ています。

生涯：ボローニャの静寂

モランディは1890年、イタリアのボローニャに生まれました。生涯の大半をボローニャとその近郊のグリッツァーナで過ごし、イタリア国外への渡航はほとんどありませんでした。唯一の例外は、1956年のパリ旅行です。ボローニャのアトリエにこもり、限られたモチーフ、すなわち卓上の静物と風景を生涯にわたって描き続けました。

1907年から1913年にかけては、ボローニャの美術学校で学びました。未来派や形而上絵画の画家たちとも交流がありましたが、特定のグループに所属することはほとんどありませんでした。1914年にはボローニャの小学校でデッサン教師となり、1929年まで教鞭を執りました。第一次世界大戦中には兵役につきましたが、病気のため短期間で除隊しています。

1920年代には、フィレンツェ春期展やミラノのノヴェチェント展などに参加。ノヴェチェントは、反前衛的な保守的美術運動でしたが、モランディ自身がファシズムに同調したという証拠はありません。1930年には母校のボローニャ美術学校で版画教師となり、第二次世界大戦後もその職に就き続けました。1940年代以降は、夏をグリッツァーナ、それ以外の季節をボローニャで過ごすようになり、静物画とグリッツァーナの風景が主要な制作テーマとなりました。1950年代からは国際的な評価が高まり、ヴェネツィア・ビエンナーレなどにも出品。サンパウロ・ビエンナーレでは版画部門と絵画部門でそれぞれ大賞を受賞するなど、数々の栄誉に輝きました。1964年、ボローニャで生涯を終えました。

作品：静寂の詩

モランディの作品は、静物画と風景画が中心です。そのほとんどが小ぶりなサイズで、落ち着いた色彩が特徴です。彼の静物画は、瓶や水差しといったありふれた日用品をモチーフとし、それらを独特の構成で配置することで、静寂で瞑想的な空間を作り出しています。油彩特有の筆触の質感も、作品の魅力の一つです。風景画は、アトリエのある通りやグリッツァーナの風景を描いたもので、静物画のような構成が用いられています。

初期の作品にはセザンヌやキュビスムの影響が見られますが、1920年頃からは卓上の静物をひたすら描き続け、独自のスタイルを確立しました。同じ容器が繰り返し登場し、配置や角度を変えながら微妙なニュアンスの変化が追求されています。モランディは、埃をまとったかのような柔らかな質感にこだわり、時には自ら容器に色を塗ることもありました。例外的に、花を活けた花瓶を描いたシリーズもありますが、その花も造花である点に、彼のモチーフに対する厳格な姿勢が見て取れます。

モランディの作品には、激しい主張や物語性はありません。しかし、その静寂な世界観は独特の深みと奥行きを備え、20世紀美術史における特異な位置を占めています。油彩だけでなく、エッチングや水彩にも優れた作品を残しています。

日本における展覧会

モランディの作品は、日本でも数々の展覧会が開催されています。代表的なものとしては、「モランディ展」(1989-1990年)、「静かなる時の流れのなかで ジョルジョ・モランディ 花と風景」展(1998-1999年)、「ジョルジョ・モランディ 終わりなき変奏」展(2015-2016年)などがあります。これらの展覧会は、日本の美術愛好家にモランディの作品を広く紹介する上で大きな役割を果たしました。

参考文献

岡田温司『モランディとその時代』
ジャネット・アブラモヴィッチ『ジョルジョ・モランディ 静謐の画家と激動の時代』
岡田温司編訳『ジョルジョ・モランディの手紙』
岡田温司『ジョルジョ・モランディ　人と芸術』
* 岡田温司監修『ジョルジョ・モランディ』

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