ジョン・アーリ

ジョン・アーリ：移動と観光の社会学における先駆者

ジョン・アーリ（1946年 - 2016年）は、イギリスを代表する社会学者の一人です。ランカスター大学で長年にわたって教鞭をとり、特に観光社会学と、21世紀に入ってからの「移動の社会学」における先駆的な研究で国際的に高い評価を得ました。

ケンブリッジからランカスターへ：初期の研究

ロンドン生まれのアーリは、ケンブリッジ大学で経済学を学び、その後同大学院で社会学の博士号を取得しました。1970年にランカスター大学へ着任してからは、講師、助教授を経て、社会学科長や社会科学部長を歴任するなど、大学の要職を歴任しました。

初期の研究は、国家権力や革命の社会学的分析に焦点を当てていました。批判的実在論に基づく社会科学の方法論の研究や、アルチュセールやグラムシの理論の批判的検討など、理論的な研究にも深く関わっていました。

多様な研究領域：空間、経済、そして移動

1980年代以降、アーリは研究領域を多角的に拡大していきます。都市・地域研究、西側資本主義社会の経済・社会変動の分析（特にスコット・ラッシュとの共著が有名です）、そして観光産業の経済・環境・文化への影響に関する研究などです。中でも、1990年に出版された『観光のまなざし』は、観光を「まなざし」という概念を通して分析した画期的な著作として知られています。

「観光のまなざし」：フーコーの概念を用いた観光論

『観光のまなざし』において、アーリはミシェル・フーコーの「まなざし」の概念を援用することで、近代観光における独特な視点を明らかにしました。観光とは、日常空間から離れた場所に対して一方的に「まなざし」を向け、対象を客体化して消費する行為だと分析しています。カメラ、ガイドブック、地図といった技術や、大量輸送手段の発達によって、近代人は観光地を「未開の自然」と見なすことで、自分自身を近代文明の秩序の中に位置づけるようになったという見解を示しました。

移動の社会学：複雑性とモビリティ

1990年代後半から2000年代にかけて、アーリの研究は「場所」から「移動」へと軸足を移していきます。場所の固定的な視点ではなく、移動や複雑性といった動的な要素を重視する「移動の社会学」を提唱し、『社会を越える社会学』、『グローバルな複雑性』、『モビリティーズ』といった著作を発表しました。これらの著作は、現代社会における多様な移動形態を分析し、グローバル化や気候変動といった問題との関連性を探るものです。

日本における影響

アーリの著作は日本でも広く読まれ、社会学者、地理学者、文化研究者などから高い評価を受けてきました。山本哲士氏や北田暁大氏など、多くの研究者が彼の理論を引用し、議論を展開しています。また、小説家の高村薫氏もアーリの著作に言及しており、その影響は学界のみに留まらず、広い読者層に及んでいます。

主要著作

アーリは多くの著作を英語で発表し、日本語訳も多数刊行されています。代表的な単著として『観光のまなざし』『場所を消費する』『社会を越える社会学』などがあり、スコット・ラッシュとの共著『記号と空間の経済』も有名です。他にも、移動をテーマにした共著や共編著が多数あります。彼の著作は、社会学のみならず、地理学、文化研究、観光学など多様な分野に影響を与え続けています。

まとめ

ジョン・アーリは、観光社会学、移動の社会学において、独自の視点と理論的枠組みを提供した重要な社会学者です。「まなざし」や「移動」といった概念を用いて、現代社会の複雑な様相を分析し、多くの研究者に刺激を与え続けました。彼の業績は、今後も社会科学の様々な分野で重要な参照点として位置づけられるでしょう。

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