ジョン・オースティン (法哲学者)

ジョン・オースティン

ジョン・オースティン（John Austin, 1790年3月3日 - 1859年12月1日）は、19世紀のイギリスにおける法哲学の重要な人物であり、法実証主義の創始者として広く知られています。

経歴

オースティンは、シチリア島とマルタ島で軍務を果たした後、法律の研究に専念しました。1818年には英国弁護士会のメンバーに加入しましたが、弁護士活動を辞退し、法を科学的に探求する道を選びました。1826年から1832年にかけてはロンドン大学で法学の教授を務め、王立委員会のメンバーとしても活躍しました。

オースティンの著作の中で特に影響力を持つのは、1832年に発表された『法学の範囲の決定』と講義をまとめた『法学の講義』です。これらの作品は英語圏の法哲学において重要な地位を占めました。

法実証主義

オースティンの法哲学の核心には以下の三つの理念があります。

1. 法は主権者からの命令であり、他のいかなる者からも独立している。
2. 命令には常に罰則が伴うものである。
3. 主権者は社会を支配する側に立っている。

オースティンは道徳と法を明確に区別し、法実証主義を法哲学に導入しました。彼の考え方によれば、法は主権者からの明確な命令として理解され、その命令に従わない場合には罰則が科せられるとされます。彼の理論は、複数の議員から成る議会制度が主権の独立性にどのような影響を与えるかという問題を提起します。また、オースティンの理論は憲法や国際法に関する視点が欠如しているとの批判も受けています。

例えば、契約法における罰則については、契約の不履行が罰則を引き起こすものの、その罰則は実質的には契約の無効に過ぎないと示唆されました。オースティンは法を他者を支配する権力として定義し、この定義は20世紀の法哲学者H.L.A.ハートによって批判されることになります。彼はこの定義を「暴力で要求を満たす西部劇のガンマン」になぞらえました。

後世への影響

オースティンの法実証主義は20世紀の多くの思想家に影響を与えました。特に法実証主義がナチス・ドイツを生んだという誤解に対して、オースティンの思想を受け継ぎ、純粋法学を打ち立てたハンス・ケルゼンや、法と道徳の関係を分析したH.L.A.ハートらが彼を擁護しました。

彼の思想は、法と道徳の相互関係を見つめ直す契機となり、現代法哲学の発展に寄与しました。オースティンの業績は、法を考える上での重要な基盤を築いたといえるでしょう。

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