ジョン・ジェームズ・ハイデッガー

ジョン・ジェームズ・ハイデッガー（Johann Jakob Heidegger）は、1666年6月16日にスイスのチューリッヒで生を受け、1749年7月9日にイングランドでその生涯を閉じた人物です。ロンドンを中心に活動した彼は、高名なオペラ興行主、すなわちインプレサリオとして知られています。ドイツ語名ではヨハン・ヤーコプ・ハイデッガーと呼ばれ、父は神学者としてチューリッヒ大学で教鞭を執ったヨハン・ハインリッヒ・ハイデッガーでした。

彼がいつイギリスに渡ったのか、その正確な時期は明らかではありません。しかし、1707年には既にロンドンのドルリー・レーン劇場で活動していた記録が残っており、このことから、それ以前にロンドンに定住していたと考えられています。イギリスでの活動において、ハイデッガーはアン女王、ジョージ1世、そしてジョージ2世という三代にわたる君主から厚い信頼を得ました。特にジョージ2世からは、王室の祝祭や娯楽全般を統括する重要な役職である宮廷祝典局長に任じられています。

ハイデッガーのキャリアの中心は、劇場の運営にありました。彼はまずヘイマーケットの女王劇場（後にヘイマーケット劇場と呼ばれる）で副支配人を務めていましたが、1713年に当時の支配人オーウェン・スウィニーが資金を持ち出して大陸へ逃亡するという事件が発生すると、これを受けて彼が劇場の実質的な支配人となりました。1713年から1738年までの長きにわたり、彼はヘイマーケット劇場をロンドンのオペラ上演の中心地として運営しました。また、1720年には新たに設立されたオペラ上演団体「王室音楽アカデミー」の創設メンバーの一人となり、その支配人としても活動しました。アカデミーでは、当時のヨーロッパ音楽界を代表する作曲家たちの作品を数多く紹介しました。アレッサンドロ・スカルラッティやジョヴァンニ・バッティスタ・ボノンチーニといったイタリア・オペラの大家に加え、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルの作品を精力的に上演し、ヘンデルとは個人的な友人関係を築きました。

しかし、王室音楽アカデミーは1728年に経営破綻という憂き目にあいます。それでもハイデッガーは諦めず、翌1729年にはヘンデルと協力してアカデミーを再建しました。ヘイマーケット劇場は再建されたアカデミーに5年間の契約で貸し出されましたが、1734年にその契約期間が満了すると、ハイデッガーはヘンデルのライバル団体である貴族オペラに劇場を貸与するという決定を下しました。このため、ヘンデルは新設されたコヴェント・ガーデン劇場へと活動の拠点を移さざるを得なくなりました。しかし、貴族オペラが1737年に倒産すると、ハイデッガーは再びヘンデルと手を携え、オペラ上演を再開するなど、二人の関係は事業上の駆け引きの中で変化していきました。

オペラ上演事業と並んで、ハイデッガーの名を広く知らしめたのが、ヘイマーケット劇場で開催した仮面舞踏会です。これらの舞踏会はロンドンの社交界で一大ブームを巻き起こし、彼の財産を大きく増やすことにつながりました。年間2000ポンドを超える収益を上げていたとも伝えられています。しかし、その人気とは裏腹に、仮面舞踏会は乱痴気騒ぎや不品行の温床であるとして、社会的な批判の的となりました。当時のロンドン大司教エドモンド・ギブスンはこれを公然と非難し、1729年にはミドルセックスの大陪審によって、ハイデッガーは「悪徳と不品行を助長する者」として糾弾されました。彼の仮面舞踏会の悪名は非常に高く、著名な風刺画家ウィリアム・ホガースは自身の作品で繰り返しこれを風刺しました。また、作家ヘンリー・フィールディングも、1728年にレミュエル・ガリヴァーの偽名で風刺詩「仮面舞踏会」を発表するなど、多くの芸術家や作家の筆によってその悪名が広められました。

ハイデッガーは、その極めて醜い顔立ちでも有名でした。「これまでこの世に存在した中で最も醜い男」とまで言われるほどで、彼の顔に関する滑稽な話は社交界で広く語られ、その奇異な外見は彼の悪名と相まって、人々の記憶に深く刻まれました。晩年はロンドンのリッチモンドに暮らし、1749年にその地で波乱に満ちた一生を終えました。

もう一度検索