ジョン・デ・ランシー (音楽家)

ジョン・デ・ランシー（John de Lancie、1921年7月26日生まれ - 2002年5月17日没）は、アメリカ合衆国を代表する音楽家であり、教育者でした。特に、フィラデルフィア管弦楽団において長きにわたり首席オーボエ奏者として活躍したことで知られています。彼の音楽キャリアは多岐にわたり、演奏家としての卓越した技術だけでなく、後進の指導や作曲家との重要な交流を通じて、クラシック音楽界に大きな足跡を残しました。

デ・ランシーは1921年、カリフォルニア州バークレーに生を受けました。彼の音楽的な才能は早くから開花しましたが、そのキャリアの初期には第二次世界大戦への従軍という経験も含まれます。この従軍中のヨーロッパ滞在が、彼にとって極めて重要な出会いをもたらすことになります。当時、彼は高名な作曲家リヒャルト・シュトラウスと面会する機会を得ました。この面会時に、デ・ランシーはシュトラウスに対し、「オーボエ協奏曲を作曲するお考えはありませんか」と直接問いかけたとされています。このデ・ランシーの提案が、後にオーボエの重要なレパートリーの一つとなるシュトラウスの《オーボエ協奏曲》（MWV TrV 292）が生まれる決定的なきっかけとなったのです。また、フランスの作曲家ジャン・フランセも、デ・ランシーからの依頼を受けて作品《花時計》（L'Horloge de Flore）を完成させており、彼の演奏家としての影響力が、新たな楽曲の誕生に貢献した事例として挙げられます。

フィラデルフィア管弦楽団の首席オーボエ奏者として、デ・ランシーはその輝かしい音色と表現力で聴衆を魅了しました。この著名なオーケストラでの活動は、彼の演奏家としての地位を不動のものとしました。また、彼は教育者としても情熱を注ぎました。1977年から1985年にかけては、彼の母校であるカーティス音楽院で教鞭を執り、さらに学園の院長も務めました。教育者としての期間には、多くの若い音楽家の育成に貢献し、次世代へと音楽の技術と精神を伝えました。

デ・ランシーは、20世紀を代表する伝説的なオーボエ奏者であるマルセル・タビュトーの直弟子の一人でした。タビュトーはカーティス音楽院で教え、デ・ランシーはその薫陶を受けた人物です。デ・ランシーが亡くなる頃には、タビュトーの直接の教えを受けた演奏家も少なくなっており、彼はその偉大な系譜を受け継ぐ数少ない存在として、音楽界で敬意を集めていました。

2002年5月17日、ジョン・デ・ランシーはカリフォルニア州ウォールナットクリークにて80歳でその生涯を終えました。彼の遺した功績は、演奏家、教育者、そして新たな名曲誕生の立役者として、今なおクラシック音楽史に刻まれています。

ちなみに、ジョン・デ・ランシーには同名の息子がおり、彼は俳優として活動しています。特に人気SFシリーズ『スター・トレック』への出演で広く知られているほか、カリフォルニアにおいて演劇の教育にも携わっています。また、日本のNHKなどでは、彼の名前が「ジョン・ド・ランシー」と表記されることもあります。

ジョン・デ・ランシーの音楽界への貢献、特にシュトラウスやフランセといった偉大な作曲家との関わりは、彼の演奏家としてのキャリアだけでなく、音楽史における彼のユニークな位置づけを物語っています。彼は卓越した演奏技術と深い音楽性をもってオーボエの可能性を追求し、同時に教育者としても多くの才能を育てました。その影響力は、今も多くの演奏家や聴衆に感じられています。

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