スザンナ (ティントレット)

作品の概要

『スザンナと長老たち』（または単に『スザンナ』）は、イタリアのルネサンス期を代表する画家ティントレットが1580年頃に制作した油彩画です。この作品は、『旧約聖書』の「ダニエル書」に記された、貞淑な女性スザンナの物語を題材としています。この絵画は、ティントレットの晩年の作品であり、ヴェネツィアの上院議員ロレンツォ・デルフィーノの依頼によって制作されたと考えられています。

現在、この作品はワシントンD.C.のナショナル・ギャラリーに所蔵されています。

描かれている内容

画面中央には、白い肌を持つ若い女性スザンナがほぼ全裸で描かれています。彼女は、身体を少しひねりながら、左手で身体を支え、鑑賞者の方に視線を向けています。右足の爪先を水際に置き、左足を泉の水に浸しています。スザンナの視線の先には、召使の女性がおり、彼女はスザンナに銀器を差し出しています。二人の女性は、どちらも赤褐色の髪を真珠のアクセサリーを織り込みながら後ろで束ねています。

スザンナの背後には、ピンク色の花をつけたバラの茂みがあり、遠景にはブドウの木で覆われたアーチの下に、明るい色のローブとフードを身に着けた2人の長老が立っています。この長老たちの存在は、スザンナの物語を暗示しています。

他の作品との比較

ティントレットは、30代の頃にも同じ主題で『スザンナと長老たち』を制作しており、そちらは裸婦の輝き、刺激的な背景、絵画空間の複雑な構成によって、ティントレットの傑作の一つとされています。しかし、本作品は裸婦像に焦点を当てたシンプルな構成であり、背景の長老たちも大雑把に描かれています。このことから、本作品は、それ自体を鑑賞するためではなく、室内装飾の一部として制作された可能性が指摘されています。

17世紀の画家・伝記作家カルロ・リドルフィの記録によれば、ロレンツォ・デルフィーノがティントレットに『旧約聖書』の物語を主題とした6点の絵画を発注した際、「庭にいるスザンナと、遠くのパーゴラから現れる2人の老人」を描いた絵画が含まれていたとされています。本作品の特徴は、この説明と一致しています。

作品の帰属について

この作品は、美術史家によってティントレットの真筆とする意見と、工房作とする意見に分かれています。バーナード・ベレンソン、ロドルフォ・パルッキーニ、パオラ・ロッシといった研究者は、この作品をティントレットの真筆と認めています。一方、ハンス・ティーツェとエリカ・ティーツェ・コンラートは、構図の活気のなさや物語の劇的ではない点から、ティントレットの模倣者による作品であると主張しました。また、ロバート・エコールズとフレデリック・イルチマンは、画家の息子ドメニコ・ティントレットによる1580年代の工房作であると考えています。

裸体像は、1570年代から1580年代にかけてのティントレットの工房作と識別できる他の絵画との比較ができますが、ティントレット自身の作品とは、人物像の基礎にある解剖学、力学、構図の感覚において違いがみられます。また、背景の長老たちの簡略化された表現は、ティントレットの他の作品における人物描写との類似性も指摘されていますが、その一方で、ティントレットの熟練した技術が欠けているという意見もあります。召使の女性は、後から付け加えられたように見え、構図のバランスを崩しているとの指摘もあります。これらの点から、この絵画は、ティントレットの工房、特に息子のドメニコによって制作された可能性があると考えられています。

来歴

この絵画は、ヴェネツィアの上院議員ロレンツォ・デルフィーノのために制作されたと考えられていますが、その後の来歴は多くが不明です。その後、イギリスの古物収集家ジョージ・オークリー・フィッシャーのコレクションとなり、さらにフィレンツェの政治家・美術コレクターのアレッサンドロ・コンティーニ＝ボナコッシ伯爵の手に渡りました。1936年にサミュエル・H・クレス財団に売却され、1939年にナショナル・ギャラリーに寄贈されました。

関連作品

スザンナを主題とするティントレットの代表的な作例には、以下のような作品が知られています。

[作品1の画像]
[作品2の画像]
* [作品3の画像]

この作品は、ティントレットの真筆であるか、工房作であるかについて、議論が続いている作品です。しかし、その美しさと物語性は、見るものを魅了し続けています。

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