スズキ・GT750

スズキ GT750：日本のバイク史に名を刻む名車

1971年、スズキはそれまでの小型車中心のラインナップを一変させる、画期的なオートバイを発表しました。それが、GT750です。愛称は「ジーナナ」として親しまれ、スズキが初めて世に送り出した大型モデルとして、日本のバイク史に大きな足跡を残しました。

圧倒的なパワーと個性的なスタイル

GT750最大の特徴は、水冷738ccの2ストローク並列3気筒エンジンです。200kgを超える車体は、当時としては大型で、北米ではそのずんぐりとしたフォルムから「ウォーターバッファロー（水牛）」というニックネームで呼ばれていました。同時期に販売されていたホンダCB750FOURやカワサキ750SSマッハといったライバル車種を相手に、堂々と渡り合えるだけの性能を誇っていたのです。

最高出力は67馬力。これは現在の750ccクラスと比べても遜色ない数値であり、メーターに刻まれた220km/hの目盛りに見合う、優れた加速性能と最高速度（約180km/h）を実現していました。その高い性能から、警察の白バイにも採用されたほどです。

さらに、GT750は個性的なデザインも持ち合わせていました。特徴的なマフラーは、中央のシリンダーから2本出しとなっており、後方から見ると4気筒エンジンを搭載しているように見える構造となっています。当時、スズキはカタログにおいて、この設計により低回転域のトルクが30%向上したと謳っていましたが、現在の視点から見ると、高級感を演出するためのデザイン上の工夫だったという見方が一般的です。また、3本のカプラーチューブをエキゾーストに接続することで、トルク向上に貢献していました。

進んだ技術とデザイン

初期モデルでは、ホイール左右にブレーキシューを配置したダブルツーリーディングブレーキシステムを採用。これは当時としては高度な技術でした。その後、モデルチェンジによってダブルディスクブレーキへと変更されましたが、この初期のブレーキシステムもGT750の技術力の高さを示す証拠と言えるでしょう。

ボディデザインも時代を反映しており、当時のスズキはテレビ番組への車両提供を積極的に行っていました。その結果、GT750は『仮面ライダーV3』、『ワイルド7』、『秘密戦隊ゴレンジャー』、『鉄人タイガーセブン』など、数々の特撮ヒーロー番組に登場し、多くの視聴者にその存在感を示しました。

GTシリーズとモデルバリエーション

GT750は、GT550、GT380、GT250、GT185、GT125、GT100など、様々な排気量を持つGTシリーズの一部として展開されました。これらのモデルは、空冷エンジンを搭載しており、GT750とは異なるキャラクターを持っていました。

GT750自体も、年式によって様々なモデルが存在します。輸出仕様ではGT750J、GT750K、GT750L、GT750M、GT750A、GT750Bといった型式が用いられ、国内仕様ではGT750、GT750B1、GT750B2、GT750B3、GT750B4、GT750B5、GT750Pなど、様々な型式が存在しました。また、各モデルともカラーリングは年々変更されており、コレクターの間では、特定の年式やカラーのGT750が高く評価されることもあります。中でも、警察車両として少数生産されたGT750Pは、2ストロークエンジンを搭載した白バイとしては最後のモデルとして知られています。

オイルショックとGSシリーズへの移行

GT750は1977年頃に生産が終了しました。オイルショックやアメリカの排ガス規制強化といった社会情勢の変化が、その生産終了に影響を与えたと考えられます。その後、スズキは4ストロークエンジンのGSシリーズを展開し、GT750の後継モデルとして市場に送り出しました。

今なお続く人気

生産終了から数十年が経過した現在でも、GT750は根強い人気を誇り、日本国内のみならず、世界各国にオーナーズクラブが存在するほどです。その独特のスタイル、高い走行性能、そして数々のテレビ番組への出演など、GT750は、多くのバイクファンに忘れられない存在として記憶されています。その歴史的価値と、稀少性から、中古市場でも高い人気を保ち続けている名車なのです。

もう一度検索