スティーヴン・キング/痩せゆく男

『スティーヴン・キング/痩せゆく男』（原題：Thinner）は、1996年に製作されたアメリカのホラー映画です。モダンホラーの巨匠、スティーヴン・キングが1984年に発表した同名の小説を原作としています。トム・ホランドが監督を務め、罪の報いとしての身体的な変容と、それに対する人間の浅はかな抵抗を描いた作品です。

物語の主人公は、肥満体でありながらもその手腕で多くの訴訟を勝ち抜いてきた弁護士、ビリー・ハレック。順風満帆な生活を送っていた彼ですが、ある夜、不注意からジプシーの老女を車で轢いて死亡させてしまいます。キャリアと名声を守りたいビリーは、旧知の仲である警察署長や判事に働きかけ、この事故をもみ消すことに成功します。

しかし、裁判を終え、法の裁きから逃れたと思ったその時、ビリーの前に老女の父親であるジプシーの老人、タドゥツ・レムキが現れます。タドゥツはビリーの頬に触れ、「痩せてゆく（Thinner）」とだけ呟きます。この言葉こそが、彼の人生を根底から覆す呪いの始まりでした。

翌日から、ビリーの体は異常な速さで痩せ始めます。ダイエットや病気とは明らかに異なる、制御不能な肉体の衰弱に、彼は次第に恐怖を感じ始めます。そして、この奇妙な現象がジプシーの呪いによるものであることを知るのです。さらに、ビリーの共犯者として事件隠蔽に関わった警察署長や判事もまた、それぞれ異なる形で呪いとも思える報いを受けることになります。

急速に衰弱していく体と、迫りくる死への恐怖に怯えるビリーは、タドゥツに許しを請い、呪いを解いてくれるよう懇願します。しかし、タドゥツは彼の訴えを一顧だにせず、冷たく突き放します。絶望の淵に突き落とされたビリーは、自暴自棄になり、ジプシーたちに対して「町の、白人の呪いをかけてやる」と叫びます。この挑発的な言葉は、さらなる破滅を招くことになります。

ビリーには、過去に恩義のあるマフィアのボス、リチャード・ジネリという強力な後ろ盾がいました。ビリーの叫びを聞いたジネリは、彼の復讐を果たすべく、闇夜に紛れてジプシーたちのキャンプを襲撃します。自動小銃を乱射し、多くの死傷者を出すジネリの暴力によって、ジプシーのコミュニティは崩壊の危機に瀕します。

共同体の存続を脅かされたタドゥツは、ついにビリーに対して呪いを解く方法を伝えます。その方法は、呪いが込められたパイを他の誰かに食べさせ、その人物に呪いを移して死なせるという、おぞましいものでした。タドゥツはビリーに「平穏に死にたければ、自らの運命を受け入れろ」と忠告しますが、生にしがみつきたいビリーは、この残酷な解除方法を実行に移そうと画策します。

しかし、彼が選んだ行動は、既にその時点で行き着く場所が決まっていたかのように、さらなる悲劇と取り返しのつかない結果を招くのでした。

主なキャスト

ビリー・ハレック: ロバート・ジョン・バーク
リチャード・ジネリ: ジョー・マンテーニャ
ジーナ・レムキ: カリ・ウーラー
ハイディ・ハレック: ルシンダ・ジェニー
リンダ・ハレック: ベサニー・ジョイ・レンツ
タドゥツ・レムキ: マイケル・コンスタンティン
スザンヌ・レムキ: イルマ・セント・ポール
マイク・ヒューストン医師: サム・フリード
リーダ・ロッシントン: エリザベス・フランツ
ケアリー・ロッシントン判事: ジョン・ホートン
ダンカン・ホープリー署長: ダニエル・フォン・バーゲン
ドラッグストアの店主: スティーヴン・キング（カメオ出演）

主なスタッフ

監督: トム・ホランド
製作: リチャード・P・ルビンスタイン、ミッチェル・ゲイリン
原作: スティーヴン・キング
脚本: マイケル・マクダウェル、トム・ホランド
撮影: キース・ヴァン・オーストラム
音楽: ダニエル・リット
* 編集: マーク・ローブ

本作は、罪を犯した人間が直面する避けられない報いと、自己中心的な願望が招く悲劇を、スリリングかつグロテスクな描写を交えて描き出しています。人間の業と運命の残酷さをテーマにした、キング原作らしい異色のホラー作品と言えるでしょう。

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