スベスベマンジュウガニ

スベスベマンジュウガニとは

スベスベマンジュウガニ（Atergatis floridus）は、オウギガニ科に属する小型のカニで、その名の通り、丸みを帯びた饅頭のような甲羅が特徴です。甲長は3.5cm、甲幅は5cm程度で、赤褐色から紫褐色の体色に灰白色の斑紋があります。ハサミの先端が黒いのも特徴の一つです。

生息環境と生態

このカニは、インド洋から西太平洋にかけて広く分布しており、日本では千葉県から沖縄県にかけての太平洋岸で見られます。岩礁海岸やサンゴ礁の潮間帯に生息し、水深100mまでの範囲で確認されています。夜行性と考えられており、飼育下ではあまり動かないことが多いです。動きが緩慢なため、磯遊びなどで見かけることもあります。食性は雑食で、海藻や貝類、ゴカイなどを食べます。

毒性について

スベスベマンジュウガニは、非常に危険な有毒ガニとして知られています。体内に麻痺性貝毒（PSP）であるゴニオトキシン、サキシトキシン、ネオサキシトキシン、そしてテトロドトキシン（フグ毒、TTX）などの強力な毒成分を持っています。これらの毒は、主に餌を通じて体内に蓄積されると考えられており、生息環境によって毒の種類や量が異なります。例えば、分布北限に近い神奈川県ではフグ毒が主成分ですが、沖縄のような亜熱帯地域では麻痺性貝毒を主成分とする個体もいます。また、同一地域でも毒を持つ個体と持たない個体が混在することが知られています。

特に注意すべきは、筋肉部分に高濃度の毒が蓄積されることです。特にハサミの付け根部分の筋肉には高濃度の毒が存在しており、これは捕食者に対する防御手段として役立っている可能性が指摘されています。過去には、沖縄県石垣島で採取された個体から、筋肉中に1000MU/g以上の毒が検出された例もあり、充分な致死量に達する毒を持っていると言えます。

他の有毒ガニとの比較

日本国内では、スベスベマンジュウガニ以外にも、ウモレオウギガニやツブヒラアシオウギガニなど、複数の有毒ガニが確認されています。これらのカニによる中毒事故は過去に発生しており、特に鹿児島県や沖縄県では注意喚起が行われています。スベスベマンジュウガニは、小型であるためか中毒事例の報告は少ないものの、その毒性は決して侮れません。

フィリピン農業研究局の報告によると、有毒ガニとして以下の9種が挙げられています。

カルイシガニ (Daldorfia horrida)
スベスベマンジュウガニ (Atergatis floridus)
キイマンジュウガニ (Atergatis integerrimus)
ユウモンガニ (Carpilius convexus)
イワオウギガニ (Eriphia sebana)
オオアカヒズメガニ (Etisus splendidus)
ヒロハオウギガニ (Lophozozymus pictor)
ツブヒラアシオウギガニ (Platypoda granulose)
ウモレオウギガニ (Zozymus aeneus*)

これらのカニは、特にオウギガニ科に多く、注意が必要です。毒の有無に関わらず、見慣れないカニは安易に食べないようにしましょう。

スベスベマンジュウガニに関する余談

スベスベマンジュウガニは、その名前からユニークな印象を与えます。実際に、NHKの「みんなのうた」では、『恋のスベスベマンジュウガニ』という歌も制作されています。また、マンジュウダニ科のササラダニの一種である「スベスベマンジュウダニ」という別の生物も存在します。

注意喚起

スベスベマンジュウガニは、美しい外見とは裏腹に非常に危険な毒を持つカニです。特に、磯遊びなどで見かけた際には、絶対に触れたり食べたりしないように注意してください。これらの毒は加熱しても分解されにくいため、調理しても安全ではありません。見慣れないカニには安易に手を出さず、自然観察を楽しむようにしましょう。

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