スペルバウンド (イングヴェイ・マルムスティーンのアルバム)

スペルバウンド（Spellbound）

『スペルバウンド』（Spellbound）は、スウェーデン出身のギタリスト、イングヴェイ・マルムスティーンが2012年に発表した、キャリア通算19作目にあたるスタジオ・アルバムです。本作は「イングヴェイ・J・マルムスティーンズ・ライジング・フォース」名義でリリースされました。

このアルバムの最大の特徴は、従来の作品とは異なり、専任のヴォーカリストを迎えずに制作された点にあります。イングヴェイ・マルムスティーン自身が、全ての楽器パートの演奏に加え、リード・ヴォーカルも担当しています。これは、彼の長きにわたるキャリアにおいて初めての試みであり、彼がギタリストとしてだけでなく、マルチプレイヤー、そしてヴォーカリストとしての才能も持ち合わせていることを示す画期的な作品となりました。

アルバムは全13曲で構成されており、そのうち10曲がインストゥルメンタル楽曲です。残りの3曲である「Let Sleeping Dogs Lie」、「Repent」、「Poisoned Minds」では、イングヴェイ自身がマイクを握り、その歌声を披露しています。インストゥルメンタルの応酬と、イングヴェイによるヴォーカル曲が織り交ぜられた独特の構成となっています。

特に注目すべき楽曲の一つに「Turbo Amadeus」があります。この曲では、クラシック音楽の大家であるヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの交響曲第25番ト短調K. 183の第1楽章から一節が引用されています。イングヴェイがクラシック音楽に深く根差した音楽性を持っていることは広く知られていますが、モーツァルトのこの楽曲からの引用は、実は1995年のアルバム『マグナム・オーパス』に収録されていたインストゥルメンタル曲「Overture 1622」においても行われており、彼が一貫して特定のクラシックフレーズにインスパイアされ続けていることが伺えます。

日本国内でリリースされた初回生産限定盤には、デラックス・エディションとして特典DVDが付属しました。このDVDには、イングヴェイ本人が自身の楽曲制作について解説するインタビュー映像などが収録されており、ファンにとってはアルバムの世界観をより深く知るための貴重なコンテンツとなりました。

アルバムのリリースに際して、日本盤のジャケット帯には「前作『リレントレス』から2年ぶりに届けられたオリジナル・アルバムが完成！その華麗なるギタープレイは勿論、全てのインストゥルメンツからヴォーカルまでをも自身で手掛けた意欲的な作品！」という解説文が掲載され、本作の革新性とイングヴェイの多才さが強調されました。

本作の制作において、イングヴェイ・マルムスティーンは文字通り中心人物として、ギター、ベース、ヴォーカル、キーボード、ドラムといった主要な楽器全てを担当しました。さらに、ギター・シンセサイザー、シタール、チェロといった多岐にわたる楽器演奏も手掛け、ミキシング作業にも自ら関与しています。ミックス・エンジニアとしては、キース・ローズが参加しています。このように、ほぼ全てのサウンドプロダクションをイングヴェイ一人で完成させたことは、彼の完璧主義と音楽的ヴィジョンを追求する姿勢を如実に示しています。

『スペルバウンド』は、イングヴェイ・マルムスティーンが自己の音楽的可能性をさらに追求し、ネオクラシカル・メタルというジャンルにおける自身の地位を確固たるものにしながらも、新たな挑戦へと踏み出した重要な作品と言えるでしょう。

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