スペードの女王 (横溝正史)

「スペードの女王」について

横溝正史の「スペードの女王」は、彼の代表作の一つであり、金田一耕助シリーズに属する推理小説です。この作品は、1958年に掲載された短編「ハートのクイン」を基に、1960年に長編として改稿され、東京文芸社から出版されました。テーマには「顔のない死体」があり、横溝はそのテーマの作品を数多く手がけてきました。「ぼくは首を取るのが好きなのよ」という彼の言葉からも、捜査と謎解きに対するこだわりが伺えます。

ストーリーの概要

物語は1954年7月25日から始まります。私立探偵の金田一耕助は、関西から帰ったその朝、坂口キクという女性から相談を受けます。キクが夫で有名な彫物師・坂口亀三郎の急死を不審に思っているのです。彫亀は特定の刺青依頼を受けており、その内容が不気味なものでした。依頼は、ベールを被った女性が持ち込んできたもので、そこには「スペードのクイーン」という刺青を彫るように指示されていました。

彫亀は、この刺青のデザインに心当たりがあり、7年前に自身が彫ったものだと気づきます。彼は、その刺青に密かに悪戯を施したと告白。3日後、彫亀は帰宅するものの、その夜の会合からの帰り道で不幸にも死体となって発見されます。キクは事故死だと思いながらも、その真相を捜査してもらいたいと金田一に訴えます。

この死と同じタイミングで、片瀬沖で若い女性の首無し死体が見つかります。その女性の内股にも「スペードのクイーン」の刺青が施されていることから、彫亀の死との関連を疑い、金田一は調査を始めます。

主な登場人物

• - 金田一耕助: 私立探偵。
• - 坂口キク: 彫物師・彫亀の妻。
• - 坂口亀三郎: 故人の彫物師。
• - 前田浜子: ペンギン書房の婦人記者。
• - 神崎八百子: 刺青を持つ女性。
• - 岩永久蔵: 腐敗した成金。

作品の特徴

本作は、特に刺青がキーポイントとなっており、それを中心とした人物関係や過去が物語を動かしていきます。また、原型短編の要素が取り入れられつつ、重要なキャラクターや設定が新たに追加され、物語が深化しています。刑事たちの描写も豊かで、緊迫感あふれる捜査が繰り広げられます。また、トリックの巧妙さと、キャラクター各々のドラマが絶妙に絡み合い、読む者を飽きさせません。

収録について

本作は、1960年に『続刊金田一耕助推理全集』第1巻として刊行され、さまざまな出版社から再版されています。横溝正史の作品に共通する心理的な描写や、風刺的な社会性も見受けられる、時代を超えた魅力を持つ作品です。

「スペードの女王」は、刺青をめぐって繰り広げられる謎解きの真髄を堪能できる作品です。横溝の卓越した表現力と独特の世界観が、読者を魅了すること間違いなしです。

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