ズルチン

ズルチン：甘味と危険の両面を持つ人工甘味料

ズルチン(dulcin)は、4-エトキシフェニル尿素という化学物質の慣用名で、かつて砂糖の代替品として広く用いられていた人工甘味料です。スクロースの約250倍もの甘さを持ち、苦味がないという特徴がありました。しかし、その強い甘味ゆえに、幼児が致死量を摂取してしまう事故が頻発し、深刻な健康被害をもたらしました。

ズルチンの性質と特徴

ズルチンはC9H12N2O2の化学式で表される有機化合物です。尿素分子にベンゼン環が結合した構造を持ち、極性があるものの水への溶解度は低く、エタノールやアセトンにはよく溶けます。常温常圧では無色または白色の固体です。

圧倒的な甘味と隠された危険性

ズルチンの最も大きな特徴は、その強烈な甘さです。砂糖の250倍もの甘味を持つため、少量でも強い甘味を感じることができます。この強い甘味と、後味が無いという点が、中毒事故の大きな原因となりました。

ズルチンは肝機能障害を引き起こす可能性があり、最悪の場合、死に至ることもあります。発がん性についてはIARC（国際がん研究機関）によって「グループ3」（ヒトへの発がん性の有無について分類できない）に分類されており、明確な発がん性は見つかっていないものの、安全とは言えません。

ズルチンの歴史と規制

ズルチンは1884年にドイツで合成され、1891年から商業生産が始まりました。安価で製造が容易だったことから、第二次世界大戦後の日本では砂糖が不足していたこともあり、広く使用されました。日本では1946年に販売が許可されましたが、1951年には既にその毒性が指摘されていました。アメリカでは1954年に使用が禁止され、その後、多くの先進国でも使用禁止となりました。

しかし、日本では1968年まで食品添加物として認められ続け、1969年にようやく食品への添加が全面的に禁止されました。その後も、中国などからの輸入食品で検出される事例があり、現在も輸入食品の検査が行われています。

日本におけるズルチン中毒事故

日本では、ズルチン中毒による死亡事故が複数報告されています。特に、幼児が誤って大量に摂取してしまう事例が多く見られました。例えば、1947年には5gのズルチンを舐めて死亡した幼児の事例、1963年には両親の留守中にズルチンを大量に摂取して死亡した2人の子供の事例などが報告されています。

1966年には、島根県で餡つけ餅に大量のズルチンを加えたことで家族6人が中毒し、73歳の老女が死亡した事例も発生しました。これらの事故は、ズルチンの強い甘味と毒性の危険性を改めて示すものです。

まとめ

ズルチンは、その強い甘味と安価さから一時的に広く使用されましたが、高い毒性のために多くの国で禁止されました。日本でも多くの中毒事故が発生し、その危険性が認識された後も、禁止までには長い時間を要しました。この事例は、食品添加物の安全性に関する規制の重要性を改めて示しています。ズルチンは、その歴史を通して、甘味と危険の両面を持つ物質であることを示しています。

もう一度検索